著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
立地選びの難しさに応える
温室や植物工場のように、建物の中で温度・湿度・光などを管理して作物を育てる方法は「環境制御型農業(CEA)」と呼ばれます。屋外の天候から生産を切り離せるため、変わりやすい天候や極端な気象、資源不足に強いことが利点です。著者らによると、米国では施設の新設が進む一方で、どこに建てるかの判断が大きな課題になっています。気候、電気や水道などのインフラ、物流、経済、政策といった多くの要素が絡み合うためです。
研究チームは、こうした判断に必要な情報が省庁、電力会社、地方自治体などに分散していることを指摘しています。既存の手段にも偏りがあるとしています。不動産開発では土地の価格や空き状況が優先されがちです。コンサルティング会社の分析は個別の案件向けで、他の地域へ広げにくいとされます。商用ソフトは費用や透明性の面で小規模な生産者が使いにくく、学術的なモデルは特定の作物や気候向けに作られていることが多いと述べています。
そこで著者らは、公開データを一か所に集め、エネルギー・水・温室効果ガス排出の見積もりまで一つの流れで扱える公開ツール「CEA SiteScout」を開発しました。専門家でない関係者も、計画の初期段階で使えることを目指しています。
ツールの仕組み
CEA SiteScoutは、気候、電力などの公共サービス、インフラ、土地利用、社会経済に関する公開データを地図上に重ねて表示します。近くの工場などと施設を併設できる機会に関するデータも含みます。利用者が作物の種類、施設の種類、技術水準などを指定すると、その場所で施設が1年間に使うエネルギー(照明・暖房・冷房)や水の量、炭素排出量について、桁の大きさをつかむための概算が示されます。
設計の方針は、関係者への聞き取りと既存ツールの不足点の検討をもとに定められました。主な目標には、ばらばらだった公開データを集めて形式をそろえることと、立地条件や施設の特徴に応じた資源使用量の基準となる見積もりを示すことが含まれます。
著者らは、このツールが候補地を絞り込むための「ふるい分け(スクリーニング)」の道具であることを明確にしています。採算性、法規制や用途地域への適合、詳細な設備性能は直接評価しません。最適な立地を計算で決めたり、サプライチェーンを最適化したりする機能もありません。その後の詳しい分析の土台となる、一貫したデータを用意することが役割です。
5つの地域で見えた違い
研究チームは、ペンシルベニア州ヨーク郡、カリフォルニア州リバーサイド、ジョージア州オーガスタと周辺の農村部、ハワイ州カウアイ島、オハイオ州とミシガン州にまたがるエリー湖西部の5地域を事例として取り上げ、地域の条件と、それに合った技術の方向性を検討しました。
夏は蒸し暑く冬は穏やかなオーガスタでは、暖房と冷房の両方が必要になります。高度な設備を備えた温室でトマトを育てる場合、1平方メートルあたり年間約1.1メガワット時のエネルギーを使い、排出量は1平方メートルあたり年間約300キログラム(CO2換算)と見積もられました。葉物野菜では1平方メートルあたり年間約0.63メガワット時でした。水の使用量は1平方メートルあたり年間約1,700リットルで、多いものの地域の供給量で対応できる範囲とされています。工業活動があることから、工場の廃熱を利用できる場所に施設を併設して冬の暖房負荷を補う案も挙げられました。
一年中暖かく湿度が高いカウアイ島では、暖房はほとんど必要ありません。一方で、冷房と除湿の負荷が常に大きいという結果でした。温室トマトは1平方メートルあたり年間約0.3メガワット時、排出量は1平方メートルあたり年間約67キログラム(CO2換算)でした。人工照明に頼る植物工場では1平方メートルあたり年間約0.8メガワット時と、より多くのエネルギーを使います。輸入燃料に頼るため電気料金が全米でも特に高い地域であることから、蓄電池と組み合わせた太陽光発電など、炭素を出さない電源の確保が重視されました。
冬が長く寒いエリー湖西部では、暖房が最大の負荷でした。高度な設備の温室トマトは1平方メートルあたり年間約1.1メガワット時、排出量は1平方メートルあたり年間約310キログラム(CO2換算)と見積もられています。水の使用量は1平方メートルあたり年間約820〜1,300リットルと中程度で、制約要因にはなりにくいとされました。ただし、流域に関する懸念から養分の管理が重要だと指摘されています。工業が集まる地域であるため、廃熱を利用する併設の可能性が特に有望とされました。著者らによると、この可能性は工業関連のデータと温室の想定を重ね合わせて初めて見えてきたものです。同様に、リバーサイドでは、日射の強さと大きな冷房需要を組み合わせて見ることで、太陽光発電と省エネ対策を組み合わせる利点がはっきりしたと報告されています。
一律ではなく地域ごとの戦略へ
著者らは、事例分析から、環境制御型農業の実現可能性や持続可能性が地域の条件に強く左右されることが示されたとまとめています。乾燥地では水の効率的な利用、寒冷地では暖房と廃熱の活用、島では電気料金と電力網の制約への対応が重要になります。どの地域にも同じ解決策を当てはめるのではなく、地域ごとの戦略を考える必要があるという指摘です。
一方で、限界も示されています。郡単位の気候データでは局所的な気候の違いを捉えきれないこと、見積もりは概算で精密な設計性能ではないこと、労働力・資金調達・物流は評価に含まれていないことです。また、土地利用やインフラの詳しいデータは5つの事例地域に限られています。政策や規制を扱う専用の機能も組み込まれていません。
それでも研究チームは、このツールが最初のふるい分けとして有効に機能し、選択肢を絞り込んで利点と欠点の比較を見えやすくすると結論づけています。後に続く技術面・経済面の詳細な評価を置き換えるのではなく、その出発点となる共通の情報基盤を提供する点に、この研究の意味があります。
原著論文の著者・所属:Arian Aghajanzadeh(Klimate Consulting, San Francisco, CA, United States)、Tyler Tarr Huntington(Biological Systems and Engineering Division, Lawrence Berkeley National Laboratory)、Abigayle Rose Hodson(Energy Analysis Division, Lawrence Berkeley National Laboratory)、Robinson Negron-Juarez(Climate and Ecosystems Sciences Division, Lawrence Berkeley National Laboratory)、Jennifer Stokes-Draut(Energy Analysis Division, Lawrence Berkeley National Laboratory)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arian Aghajanzadeh, Tyler Tarr Huntington, Abigayle Rose Hodson, et al. CEA SiteScout: application of a data-driven screening tool for controlled environment agriculture site selection and resource estimation in U.S. communities. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-02. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1891079. 原著ライセンス:CC BY.