「セレン」という名前を聞いたことはあるでしょうか。セレンは、体内にごく微量しか存在しない微量ミネラルです。肝臓や腎臓に多く分布し、活性酸素を分解する酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ)の構成成分として、抗酸化に関わるとされています。また甲状腺ホルモンの代謝にも重要な役割を担うとされるミネラルです。
※上記はセレンという栄養素の一般的な機能についての記述であり、特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、30〜49歳女性の推奨量は1日25µg。一方で、摂りすぎると脱毛・爪の変形・神経障害・胃腸障害を引き起こす過剰症のリスクがあるため、耐容上限量(これ以上摂ると健康障害が生じうる上限値)も設定されているミネラルです。
今回は日本食品標準成分表(八訂)のデータをもとに、セレンを多く含む食品の上位5品を読み解きます。数字の大きさに驚きつつ、「では実際の一食でどのくらい摂れるのか」という問いを携えて見ていきましょう。
ランキングの数字は桁違い——その実態は?
上位食品のセレン含有量(可食部100gあたり)を推奨量25µgに対する割合で見ると、いずれも推奨量の数倍〜十倍超という水準です。ただしこれらの割合はあくまで推奨量に対する比率であり、耐容上限量の基準ではありません。100gそのまま食べることを前提にした数字でもありません。
ここからが重要な問いです——「では一食でどのくらい食べる食品なのか」。
上位5食品を一食量で見る
第1位:かつお節(セレン 320µg/100g、推奨量比1,280%)
100gあたりのセレン量は320µg、推奨量の実に1,280%——しかし待ってください。かつお節の実際の一食量は1パック約5gです。この量に換算すると約16µg、推奨量25µgの約64%。「100gあたりの数字」とは別世界の、現実的な貢献度が見えてきます。それでも5gという少量でこれだけの量を補える密度の高さは際立っています。みそ汁やお浸しのだしに使う習慣が、セレンの自然な補給につながっているわけです。
第2位:からし粉(セレン 290µg/100g、推奨量比1,160%)
推奨量比で見れば1位のかつお節に近い水準ですが、からし粉は一般的に一度に1〜3g程度しか使わない香辛料です。5gあたりに換算しても約14.5µg(推奨量の約58%)にとどまり、かつお節(同量で約16µg)と比べてもわずかに少ない。「多く含む食品」ではあっても、食卓での役割が異なるため、セレンの主要な供給源として日常的に頼ることは現実的ではありません。
第3位(同率):裸節(セレン 240µg/100g)
裸節は、かつおを燻乾のみで仕上げ、カビ付け工程を経ない加工品です。かつお節と同じカテゴリに属し、削り節やだしとして使われる点も共通しています。かつお節(320µg)と比べると一食量あたりの絶対量は少し下がりますが、使い方や性格は近いと言えます。
第3位(同率):豚のじん臓(セレン 240µg/100g)
豚のじん臓(腎臓)は、生の状態で100gあたりのセレン量では裸節と同程度です。ただし一般的に1個あたり約100〜200gとまとまった量で流通しており、日常的に一度に食べる量としてはかなりの量になります。セレンは耐容上限量が設定されているミネラルであるため、副生物(内臓肉)を多量に食べ続ける場合は過剰摂取に注意が必要です。
内臓肉(腎臓)を調理する際は、必ず中心部まで十分に加熱してください。生または加熱不十分な内臓肉には、リステリアや腸管出血性大腸菌(O157など)といった食中毒菌が含まれるリスクがあります。特に妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は、生の内臓肉の摂取を避け、十分に加熱した状態で食べるよう注意が必要です。料理に使う際は加熱の徹底と量の両方に気をつけながら取り入れましょう。
同率3位が2品あるため、次の順位は第5位となります。
第5位:牛のじん臓(セレン 210µg/100g)
牛のじん臓は、豚のじん臓(240µg)より100gあたりのセレン量はやや少なめですが、一般的に1個あたり約1kgと非常に大きい。家庭で一度に使い切る量ではなく、日常的なセレン源として位置づけるには現実的ではありません。多量摂取の際は過剰症のリスクを念頭に置いてください。豚のじん臓と同様、必ず中心部まで十分に加熱し、生または加熱不十分な状態では食べないようにしてください。妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は特に注意が必要です。
「一食量」という視点が、摂り方を変える
上位5食品を並べると、100gあたりの数字は確かに大きい。しかし一食量で換算したとき、推奨量25µgに対して最も多く近づけるのはかつお節5g(約16µg)です。からし粉は一食1〜3gでは数µg程度、じん臓類は一個買いが非現実的かつ量が多すぎて過剰摂取の懸念が生じます。
セレンは欠乏すると心筋の障害(克山病)との関連が知られ、過剰では脱毛や神経障害のリスクがある——この両側に気をつけなければならないミネラルです。「多く含む食品をたくさん食べる」ではなく、「少量で効率よく補える食品を日常的に使う」ことが合理的な選択になります。
みそ汁のだし、お浸しの仕上げ、かつお節ひとつまみ。毎日の何気ない習慣の中に、セレンの現実的な補給源はすでにあります。ただし、かつお節にはプリン体が比較的多く含まれます。尿酸値が高い方や痛風のある方は、毎日の摂取量や摂り方について医師・管理栄養士にご相談ください。
参考:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」/厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。