この研究は、中国、カタールの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
子どもの頃に身につける食べ物の選び方は、その後の食習慣の土台になると考えられています。研究チームが注目したのは「栄養リテラシー」と呼ばれる力です。これは論文の説明によれば、栄養に関する情報を手に入れ、理解し、それを使って健康的な食べ物を選ぶ能力を指します。単に知識を覚えているかどうかではなく、実際の選択に活かせるかまでを含む考え方です。
中国では国の計画として住民の栄養・健康知識の向上が掲げられている一方で、研究チームは、小学生の栄養リテラシーに関する国内の研究が地域的に偏っていると指摘しています。北京や河北省、青海省、貴州省などの報告はあるものの、内陸の大都市である重慶市の小学4・5年生については情報が乏しかったといいます。重慶市は都市化が急速に進み、都市と農村の社会経済的な差が大きい地域であるため、子どもが栄養の情報に触れる機会も他の地域とは異なる可能性があると著者らは述べています。そこでこの研究は、重慶市の小学4・5年生の栄養リテラシーの水準を測り、それに関連する要因を探ることを目的としました。
どのように調べたか
研究チームは2024年5月から10月にかけて、重慶市の江北・江津・渝北・九龍坡・綦江の各区にある小学校で調査を行いました。学校をいくつかの段階に分けて選び、クラス単位で対象とする方法(多段階層化クラスター抽出)を用い、オンラインのアンケートを実施しています。集まった1,560件の回答のうち、不備のあった140件を除いた1,420人分を分析対象としました。
質問票は、基本的な属性、学校の食環境についての認識、食生活の行動、そして栄養リテラシーを測る部分などから構成されています。栄養リテラシーの測定には、中国の学齢期の子ども向けに既に開発されていた質問票を用い、学年ごとに満点が異なるため100点満点に換算して分析しました。先行研究にもとづく目安として80点以上を「十分」とみなしていますが、著者らはこの区切りは全体像を説明するために使っただけで、要因を調べる統計分析では点数を連続した数値として扱ったと明記しています。
調査は一時点で行われる横断研究です。著者ら自身、この設計では栄養リテラシーと関連要因の間の因果関係は示せず、結果はあくまで「関連」として読むべきだと限界の項で述べています。また身長・体重は子どもの自己申告であることも限界として挙げられています。
報告された主な結果
論文によると、栄養リテラシーの平均点は100点換算で65.47点(標準偏差9.79)でした。前述の80点以上という目安を満たしたのは6.62%にとどまり、93.38%はそれを下回りました。著者らはこの水準を全体として低いと評価しています。なお他地域との比較として、河北省保定市の61.91点や貴州省の63.50点より高く、北京の66.6点にはわずかに届かないという先行研究の数値が紹介されていますが、同時に中国では評価基準が統一されておらず、研究間の比較は難しいとも注意が促されています。
複数の要因を同時に考慮した重回帰分析では、年齢が高いこと(11・12歳は9・10歳に比べて)、女子であること、少数民族であること、都市部に住んでいること、そして主な養育者の学歴が高いことが、いずれも高い得点と独立して結びついていました。養育者の学歴については、小学校卒以下を基準にすると中学校卒、高校・専門学校卒、大学以上と進むにつれて差が大きくなる段階的な関連が見られています。
食生活の行動では、食事の記録をつけていること(教師や保護者が子どもの食事内容を記録)が約4.18点、食事の準備や食器の配膳に参加していることが約2.07点、それぞれ高い得点と関連していました。一方で、食事時間が31〜45分の子どもは、15分未満の子どもに比べて約3.39点低いという結果でした。著者らはこの点について、全体の食事内容が栄養的に整っていれば、短時間で食べることが必ずしも低い栄養リテラシーを意味するわけではないと述べ、集団での食事では食べる速さが上がりうるという既存の理論にも触れています。なお、間食の回数、BMI、一人っ子かどうかについては、得点との統計的に意味のある関連は見られませんでした。
少数民族の子どもの得点が高かった点について、著者らは、この研究では民族的・文化的背景や家庭の食習慣、地域の教育資源といった詳しい情報を集めていないため、その背後にある仕組みは検討できなかったとしています。そのうえで、この結果は慎重に解釈すべきで、より大規模で複数地域にまたがる研究による確認が必要だと述べています。
この研究が示していること
この研究は、重慶市の小学4・5年生の栄養リテラシーが全体として低く、その差が本人の年齢や性別だけでなく、住んでいる場所や養育者の学歴といった家庭・社会の環境、さらに食事の記録や食事の準備への参加といった日々の食に関わる行動と結びついていたことを報告しています。
著者らは結論として、小学生への栄養教育を強化し、食に実際に手を動かして関わる活動をより重視するとともに、養育者の学歴が低い家庭の子どもや農村部の子どもへの重点的な支援が必要だとしています。子どもの栄養リテラシーは知識を教えるだけの問題ではなく、その子が置かれた環境と日常の経験の問題でもある、という見方をこの結果は示しています。
著者:Yuanyuan Lan(Nutrition Innovation Platform-Sichuan and Chongqing, School of Public Health, Chongqing Medical University)、Jiaxin Deng(Nutrition Innovation Platform-Sichuan and Chongqing, School of Public Health, Chongqing Medical University)、Ailin Zhou(Nutrition Innovation Platform-Sichuan and Chongqing, School of Public Health, Chongqing Medical University)、Yi Luo(Nutrition Innovation Platform-Sichuan and Chongqing, School of Public Health, Chongqing Medical University)、Huiyi Zhang(Nutrition Innovation Platform-Sichuan and Chongqing, School of Public Health, Chongqing Medical University)、Wenhua Ran(Yuzhong District Primary and Middle School Health Care Center)、Ling Liu(Yuzhong District Primary and Middle School Health Care Center)、Zumin Shi(Department of Nutrition Sciences, College of Health Sciences, Qatar University)、Yong Zhao(Chongqing Key Laboratory of Child Nutrition and Health, Children's Hospital of Chongqing Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuanyuan Lan, Jiaxin Deng, Ailin Zhou, et al. Low nutrition literacy among 4th−5th graders in Chongqing, China: a wake-up call for school health and factors associated with nutrition literacy. Frontiers in Public Health 2026-09-15. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1903177. 原著ライセンス:CC BY.