著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、アメリカです。
掲載誌:Measurement Food
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
牛肉のやわらかさは、消費者が肉の品質を判断するうえで特に大きな影響を持つ性質です。また、筋肉の中に含まれる脂肪(筋肉内脂肪、いわゆる霜降りのもとになる脂肪)の量も、風味やジューシーさに直接かかわります。研究チームによると、やわらかさと筋肉内脂肪のそれぞれについては多くの研究がある一方、両者を組み合わせて調べた報告は少なく、インド系牛(ゼブー牛)ではとりわけ少ないといいます。
ブラジルで広く飼われているネローレ種はインド系牛の代表的な品種で、ヨーロッパ系の牛に比べて肉がかたく、筋肉内脂肪が少ない傾向があるとされます。そこで著者らは、肉に含まれる多数の脂質を網羅的に調べる「リピドミクス」という手法を使い、ネローレ牛の肉で、やわらかさと筋肉内脂肪量の違いにどのような脂質の違いが伴っているかを探索的に調べました。
何をどう調べたか
研究チームは、同じ年齢層(22〜24か月)で、放牧で育てた後に肥育場で仕上げたネローレ種の雄牛280頭から、ロース部分にあたる胸最長筋のサンプルを集めました。やわらかさは、加熱した肉を刃で切断するのに必要な力(せん断力)で測定しました。この値が小さいほどやわらかい肉です。あわせて、筋肉内脂肪の含有率も測りました。
これらの測定値をもとに、サンプルを「比較的やわらかく脂肪が少ない」「かたく脂肪が多い」「やわらかく脂肪が多い」「かたく脂肪が少ない」の4グループに分けました。脂肪が多いグループの筋肉内脂肪率は2%台、少ないグループは1%未満で、やわらかいグループのせん断力は約5.7〜6.2kg、かたいグループは約8.3〜8.4kgでした。
各グループから6サンプルを選び、5日間熟成させた肉から脂質を抽出して質量分析装置で調べました。3,727種類の測定対象から、信号が十分に強かった611種類を解析に用いました。比較は、脂肪が少ない肉どうしでのやわらかい肉とかたい肉、脂肪が多い肉どうしでのやわらかい肉とかたい肉、そして同じくかたい肉どうしでの脂肪の多い肉と少ない肉、の3通りです。なお、肉の酸性度(pH)は4グループ間で差がありませんでした。
主な結果
脂肪が少ない肉どうしの比較では、12種類の脂質に差が見られました。やわらかい肉では、脂肪酸をミトコンドリアへ運んでエネルギー源として使う過程にかかわる「アシルカルニチン」の一種が多く、細胞膜の主要な成分であるリン脂質の一種「ホスファチジルコリン」は少ない傾向でした。かたい肉では、膜の成分や小胞体など、膜に関係する脂質の特徴がより目立っていました。
脂肪が多い肉どうしの比較では、14種類の脂質に差がありました。ここでもやわらかい肉ではアシルカルニチン類やL-カルニチンが多く、かたい肉ではリン脂質が多いという結果でした。著者らは、具体的な脂質の種類は異なるものの、脂肪の多少にかかわらず、やわらかさの違いにはアシルカルニチンと膜のリン脂質の違いが伴っていたと述べています。
かたい肉どうしで脂肪の多少を比べると、差のある脂質は41種類と最も多くなりました。脂肪の多い肉では、特定の遊離脂肪酸や一部のアシルカルニチンが多く、脂肪の貯蔵や脂肪滴、中性脂肪(トリアシルグリセロール)に関する特徴が目立ちました。一方、脂肪の少ない肉では、膜成分やミトコンドリアに関係する脂質の特徴がより強く表れていました。
結果が示すこと
この研究は、ネローレ牛の肉で、やわらかさと筋肉内脂肪の組み合わせによって脂質の構成が異なることを示しました。やわらかさの違いにはエネルギー代謝にかかわるアシルカルニチンと膜のリン脂質が、脂肪量の違いには脂肪の貯蔵にかかわる脂質が主に関係していました。ただし、これらは関連として見いだされたもので、著者らは、ミトコンドリアの働きや膜の性質などは直接測っておらず、脂質の違いが肉質にどう結びつくのかという仕組みは今後の検証が必要だとしています。また、脂質の量は相対的な値であり、別のサンプル群での確認もまだ行われていません。
著者らは、自分たちの知る限り、ネローレ牛の肉でやわらかさと筋肉内脂肪の同時の違いに伴う脂質の特徴をリピドミクスで調べたのはこの研究が初めてだとしています。牛肉の食感や脂肪量の違いの背後にある脂質の特徴を、両方の性質を組み合わせて描き出そうとした点に、この研究の意味があります。
原著論文の著者・所属:Juliana Akamine Torrecilhas(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Guilherme Luis Pereira(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Welder Angelo Baldassini(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Clara Estevam da Costa(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ) , São Paulo State University (UNESP) , Botucatu , SP , Brazil)、Alexandre dos Santos Losi Filho、Diogo Otavio Garcia Tomazela(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Matheus Severo dos Santos、Leonardo Raitz Petri(São Paulo State University (UNESP), Jaboticabal, SP, Brazil)、Gabriela Branco Custodio de Lima(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ) , São Paulo State University (UNESP) , Botucatu , SP , Brazil)、Rogerio Abdallah Curi(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Rodrigo Nazaré Santos Torres(Federal University of Mato Grosso, Sinop Campus, Sinop, MT, Brazil)、Otávio Rodrigues Machado Neto(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)、Christina Ramires Ferreira(Metabolite Profiling Facility, Bindley Bioscience Center, Purdue University, West Lafayette, IN, USA)、Luis Artur Loyola Chardulo(School of Veterinary and Animal Science (FMVZ), São Paulo State University (UNESP), Botucatu, SP, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juliana Akamine Torrecilhas, Guilherme Luis Pereira, Welder Angelo Baldassini, et al. Exploratory lipidomic reveals lipid signatures associated with tenderness and intramuscular fat variation in Nellore beef. Measurement Food 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.meafoo.2026.100326. 原著ライセンス:CC BY.