掲載誌:chemistry of plant raw material
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アルキルレゾルシノール(AR)は、小麦の粒の外側の皮(ふすまの部分)にある、脂質とフェノール化合物の両方の性質をあわせ持つ成分群です。著者らは先行研究をもとに、ARが全粒粉製品に含まれ、人の脂質代謝の調節に良い影響を与えると紹介しています。白い小麦粉をつくる工程では外皮とともにARはほぼ取り除かれるため、ARは全粒粉製品の目印にもなります。著者らは、ARの量を測ることが、機能性食品向けの品種選びや、全粒粉製品が表示どおりかを確かめるうえで重要だとしています。
ARを正確に測るにはガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)といった成分を分離して測る方法がありますが、時間と費用がかかります。これに対し、Fast Blue RRという試薬がARと反応して色のついた物質をつくる性質を利用し、その色の濃さを光の吸収(吸光度)で測る分光光度法は、簡単で安価なため多数の試料を調べるのに向いています。ただし、粒に含まれるほかのフェノール化合物も試薬と反応して数値を押し上げるおそれがあります。特に赤い粒の品種の種皮には、カテキンを主な構成単位とするプロアントシアニジンが含まれています。そこで研究チームは、赤粒の春まき普通小麦でこの分光光度法を使うための条件を最適化することを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、2023年に収穫された春まき普通小麦3品種(白粒のArrino、赤粒のヨルディズとシタラ)を全粒粉にし、無水アセトンでARを抽出したうえでメタノールに溶かし直して分析しました。ARやプロアントシアニジンをほとんど含まない対照として、粒の中心部(胚乳)からつくられるセモリナ(マンナ粗挽き粉)も用いました。
まず、小麦に含まれうる複数のフェノール化合物(フェルラ酸、没食子酸、アピゲニン、ケルセチン、カテキン)が試薬とどの程度色をつくるかを、AR測定の基準物質として使うオルシノールと同じ濃度で比べました。著者らは、こうした比較を行ったのは初めてだとしています。続いて、抽出液にプロアントシアニジンがどれだけ含まれ、測定値にどの程度影響しうるかを見積もりました。さらに、薄層クロマトグラフィーとHPLCで抽出液に含まれる成分を確認し、測定に適した時間を検討したうえで、分光光度法の結果をHPLCの結果と比較しました。
主な結果
フェノール酸類は試薬と弱くしか反応せず、アピゲニンは反応せず、ケルセチンも弱い反応にとどまりました。一方、カテキンははっきりと色をつくり、オルシノールほどではないものの反応しました。論文は、カテキンの濃度が抽出液1ミリリットルあたり5マイクログラムを超えると、ARの値が高めに出る可能性があると報告しています。
ただし、ARの測定に使う抽出液からは、プロアントシアニジンやその構成単位は検出されませんでした。より濃い抽出液で測ったところ、全粒粉1グラム(乾燥重量)あたりの含有量はArrinoで約3.4マイクログラム、ヨルディズで約6.8マイクログラム、シタラで約8.2マイクログラムでした。最も多いシタラの値をもとに計算しても、測定値への寄与は装置の誤差の範囲内にとどまりました。クロマトグラフィーでは正体の分からない成分も抽出液に含まれていましたが、ARの分光光度測定を妨げてはいないと著者らは結論づけています。
試薬を加えてから10〜30分の間に測るのが適していることも示されました。ARの量を、オルシノールに換算した値で全粒粉1グラム(乾燥重量)あたりに示すと、分光光度法ではArrinoが約110、ヨルディズが約152、シタラが約198マイクログラムでした。HPLCではそれぞれ約121、177、218マイクログラムでした。すべての品種でHPLCの値のほうがやや高かったものの、両方法の間に大きな差は認められず、強い相関(相関係数0.955)が確認されました。
研究が示すこと
この研究は、無水アセトンで抽出し、メタノールに溶かし直すという手順を用いれば、赤粒の小麦でもプロアントシアニジンの影響をほとんど受けずに、Fast Blue RRを使った簡便な方法でARを測定できることを示しました。著者らは、この方法をHPLCより速く安価で扱いやすい、全粒粉中のAR評価法として位置づけています。
同時に、カテキンが試薬と反応しうることも明らかになりました。そのため著者らは、ほかの材料や別の抽出溶媒でこの方法を使う前に、遊離のカテキンやプロアントシアニジンといったフェノール性の共存成分がどれだけ含まれているかを、あらかじめ確かめることを勧めています。
著者:А. И. Валиева、Anton Nikolaevich Akulov(Candidate of Biological Sciences , Researcher , "Cell Biology in vitro" Group , cell-)、Natalya Ivanovna Rumyantseva
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):А. И. Валиева, Anton Nikolaevich Akulov, Natalya Ivanovna Rumyantseva. THE SPECTROPHOTOMETRIC DETERMINATION OF ALKYLRESORCINOLS IN GRAIN OF BREAD WHEAT (TRITICUM AESTIVUM L.). chemistry of plant raw material 2026-10-07. DOI: 10.14258/jcprm.20260318034. 原著ライセンス:CC BY.