この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
コーヒーの香りは、産地や品種、加工方法、抽出条件などの影響を受けます。中でも焙煎の度合いは、最終的な香りを決める大きな要因です。生豆には焙煎コーヒー特有の心地よい香りがほとんどありません。焙煎中の加熱で起こるさまざまな化学反応によって、香りに関わる成分が生まれ、変化し、分解されていきます。
しかし著者らによると、これまでの研究の多くは、いくつかの焙煎度を飛び飛びに比べるものでした。香りのもとになる成分、実際に揮発する香り成分、人が感じる風味が、焙煎の進行に合わせてどう連動して変わるのかは、十分に調べられていませんでした。
そこで研究チームは、中国雲南省保山産のアラビカ種(カティモール品種)を使い、焙煎の途中経過を細かく追いました。化学分析と官能評価(訓練を受けた評価者が味や香りを採点する方法)を組み合わせ、風味の発達における大きな転換点を探ることを目指しました。
何をどのように調べたか
研究チームは、焙煎していない生豆をS0としました。焙煎豆は、焙煎中に豆がはじける「1ハゼ」の終盤から、豆の表面に油が見え始める段階までを8段階(S1〜S8)に分けました。各段階は3回ずつ独立に焙煎しています。
香りのもとになる成分として、糖(ショ糖、果糖、ブドウ糖)とクロロゲン酸類を測りました。クロロゲン酸類は、コーヒーの味に関わり、焙煎中に加熱で変化・分解する成分群です。あわせてカフェインも測定しました。
香り成分については、豆から立ちのぼる揮発性の化合物を捕集し、種類と量を調べました。さらに、各成分の濃度を「人がにおいを感じ始める濃度(においのしきい値)」で割った値を算出しました。この値が1を超える成分は、一般に全体の香りに寄与しうる成分とみなされます。
風味の評価には、スペシャルティコーヒー協会(SCA)の「カッピング」と呼ばれる手順を使いました。5人の訓練を受けた評価者が、香り、風味、酸味、甘さ、バランスなどの項目を採点しています。
主な結果
糖とクロロゲン酸類の総量は、焙煎が進むほど減り続けました。生豆の糖の大部分はショ糖でしたが、焙煎開始後に急速に減り、S5では検出されなくなりました。果糖とブドウ糖は生豆では検出されず、焙煎開始後に検出されるようになりました。どちらもS2で最大となった後に減少し、S4で再び検出されなくなりました。代表的な成分であるクロロゲン酸は、S8では生豆と比べて98.54%減っていました。一方、カフェインは焙煎豆のほうが生豆より有意に多かったものの、焙煎段階のあいだでは明確な増減の傾向はみられませんでした。
香り成分は全部で70種類が見つかりました。検出される種類の数はS5まで増え、その後は増えませんでした。総濃度はS7で最大となり、S8では減少しました。著者らは、焙煎の前半から中盤は新しい香り成分が生まれて種類が増える時期であり、S5以降はすでにできた成分の蓄積や組み替え、一部の分解が中心になると解釈しています。
香りの性格も段階的に変わりました。生豆にあった果実やハーブを思わせる成分は焙煎初期に減りました。中盤には、甘いカラメル様やナッツ様の香りを持つ成分が増えました。終盤には、スモーキー、焦げ、木のような香りを持つピリジン類やフェノール類が目立つようになりました。においへの寄与で見ると、焙煎開始後はナッツや焙煎香に関わるピラジン類が中心となり、その割合はS4で最も高くなりました。その後はフラン類やフェノール類の寄与が強まりました。
焙煎段階の違いをよく見分ける目印として、研究チームは5つの成分を挙げています。生豆と焙煎初期に結びつくフェニルエチルアルコール(はちみつやバラのような香り)、中盤に結びつくフルフラール(甘くパンやカラメルのような香り)、中盤から後半に結びつくフルフリルアルコール、そして後半に結びつくフェノールとピリジンです。香り成分の組成を統計的に比べると、S1〜S4は互いに近い位置にまとまりました。S5は、それより前の段階から初めて明確に離れた段階でした。
官能評価では、カップの品質は焙煎とともに向上し、S4で最も良くなったと報告されています。S4は、ナッツ、ローストしたヘーゼルナッツ、カラメルのような香りがバランスよく感じられる状態でした。それ以降は、スモーキーさや焦げた苦みが強まり、評価が下がりました。
この研究が示すこと
著者らは、成分分析と官能評価の結果を総合し、S4からS5への移行を、焙煎中のコーヒーの香りが大きく変わる重要な転換点と位置づけています。この前後では、糖が検出されなくなり、香り成分の種類の増加が止まり、香りの組成が初期の段階から離れ始め、カップの評価が最高点から下がり始めていました。
飛び飛びの焙煎度ではなく連続した段階を追うことで、香りのもとになる成分の変化と香りの質の変化を一続きの流れとして捉えたことが、この研究の特徴です。研究チームは、この成果が焙煎の管理やコーヒーの香りの品質を高めるための基礎になるとしています。
著者:Yizhi Chen(CAU Sichuan Chengdu Advanced Agricultural Industrial Institute, No. 515 Xingyuan 8th Road, Chengdu 611430, China)、Siqian Guo(CAU Sichuan Chengdu Advanced Agricultural Industrial Institute, No. 515 Xingyuan 8th Road, Chengdu 611430, China)、Yilin Wang(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, No. 17 Tsinghua Dong Road, Beijing 100083, China)、Xianwen Wang(Baoshan Inspection and Testing Institute, Baoshan 678000, China)、Tao Tong(Baoshan Inspection and Testing Institute, Baoshan 678000, China)、Wentao Gao(CAU Sichuan Chengdu Advanced Agricultural Industrial Institute, No. 515 Xingyuan 8th Road, Chengdu 611430, China)、Kexi Ma(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, No. 17 Tsinghua Dong Road, Beijing 100083, China)、Liyan Ma(Baoshan Inspection and Testing Institute, Baoshan 678000, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yizhi Chen, Siqian Guo, Yilin Wang, et al. From Chemical Transformations to Cup Quality: Integrated Insights into Key Non-Volatile Compounds, Aroma-Active Compounds and Sensory Evolution During Continuous Roasting Stages in Yunnan Arabica Coffee. Foods 2026-10-08. DOI: 10.3390/foods15193569. 原著ライセンス:CC BY.