著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Journal of Fungi

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

Oudemansiella raphanipesは、中国では「black-skinned termitomyces」という名で流通している、食用・薬用の希少なキノコです。新しい品種を登録する際には、既存の品種と区別できるか、個体のそろい具合は十分か、世代を重ねても特徴が保たれるかを確かめる「DUS審査(区別性・均一性・安定性の審査)」が行われます。この審査では、柄の長さや傘の直径といった形の特徴(表現型)を多数の個体で測る必要があります。

人の手による計測は手間と時間がかかり、測る人によって結果がぶれやすく、基準をそろえにくいという課題があります。研究チームは、撮影した画像からキノコの各部位を自動で切り分け、DUS審査に必要な形の指標を自動で求める仕組みの開発を目指しました。

何をどのように調べたか

研究チームは、同じ栽培条件のもとで複数の栽培ロットから育てた7系統のキノコのうち、成熟した傷や変形のない子実体を選んで撮影しました。撮影には独自に開発した撮影ボックスを使いました。このボックスは、色温度を約6500Kに固定したLED照明、対象を見分けやすくする緑色の背景、色を補正するための標準カラーチャート、画像上の長さを実際の長さに換算するための目盛り格子を備えています。カメラの距離と焦点も固定し、撮影条件をそろえました。

こうして得た473枚の画像について、傘の半分、傘の断面、柄の3つの部位を1画素ずつ手作業で囲み、計1419個の対象に印を付けました。これを教材として、画像の中から個々の対象を画素単位で切り分ける「インスタンスセグメンテーション」と呼ばれる手法のAIを学習させました。

土台にしたのは、YOLOv11s-segという既存の画像認識モデルです。研究チームは、撮影ボックスに組み込んで素早く動かせるよう、画像の特徴を読み取る中心部分をStarNetという軽量な仕組みに置き換え、改良版のYOLOv11s-star-segを構築しました。切り分けた部位の画像からは、柄の長さ、柄の直径、傘の直径、傘の厚さを算出し、手作業で測った値と比べました。さらに、柄を縦に4等分した位置の幅などを使って、柄の形を紡錘形・こん棒形・円柱形の3種類に分類する方法も検討しました。

主な結果

改良版モデルは、検出の正確さを示す適合率が98.6%、見落としの少なさを示す再現率が99.3%でした。また、予測した領域と正解の領域がどれだけ重なるかを表す指標(mIoU)は97.86%でした。元のモデルと比べると、適合率などの一部の指標はわずかに下がったものの、再現率や重なりの指標は向上し、切り分けの性能はほぼ同等に保たれたと論文は報告しています。一方で、モデルの規模を示すパラメータ数は1008万から611万へと約39%減り、推論にかかる時間も19.6ミリ秒から14.3ミリ秒へと約27%短くなりました。

自動計測した値と手作業の値の関係を、1に近いほど両者の対応がよいことを示す決定係数で評価しました。その結果、柄の長さは0.98、傘の直径は0.98、柄の直径は0.96と、高い一致を示しました。両者のずれにも系統的な偏りはほとんど見られませんでした。これに対し、傘の厚さは0.74と一致度が低めでした。著者らは、その理由をいくつか挙げています。画像から求めた厚さは、画像上の図形に収まる最大の円の直径を使った代わりの指標であり、審査で実際に測る厚さとは定義が異なります。また、傘の厚さはもともと2〜5ミリほどと小さいうえ、柔らかい組織がノギスで押されて変形するなど、手作業の計測にも不確かさがあります。

柄の形の分類では、3人の専門家の判定(意見が分かれた場合は多数決)を基準としました。紡錘形の正解率は98.77%と高かった一方、こん棒形は76.17%、円柱形は77.20%にとどまりました。審査の指針には3つの形の代表的な図はあるものの、数値による定義はありません。専門家の判定が分かれたのも、主に形の境目にあたる見分けにくい個体でした。

研究が示すこと

この研究は、条件をそろえた撮影と軽量なAIを組み合わせることで、このキノコの柄の長さや傘の直径といった主要な寸法を、手作業の計測とよく一致する形で自動的に求められることを示しました。著者らは、こうした自動化によって人手を減らし、審査の効率化と計測基準の標準化に役立つと述べています。

一方で、傘の厚さのように2次元の画像では捉えにくい指標や、こん棒形と円柱形のように境目のあいまいな形の区別には、まだ課題が残ることも明らかになりました。また、学習と検証に使ったデータは主に固定された撮影環境で得られたもので、照明や背景、品種が異なる条件での性能は十分に確かめられていないと著者らは記しています。

原著論文の著者・所属:Tao Yuan(Institute of Agricultural Science and Technology Information, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Dong Hu(Institute of Agricultural Science and Technology Information, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Mengyuan Xu(Institute of Agricultural Science and Technology Information, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Minglu Tian(Institute of Agricultural Science and Technology Information, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Hailong Yu(Institute of Edible Fungi, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, National Engineering Research Center of Edible Fungi, Shanghai 201403, China)、Linyi Li(Institute of Agricultural Science and Technology Information, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tao Yuan, Dong Hu, Mengyuan Xu, et al. Accurate Extraction of Phenotypic Parameters for DUS Testing of Oudemansiella raphanipes Based on Deep Learning. Journal of Fungi 2026-10-16. DOI: 10.3390/jof12100778. 原著ライセンス:CC BY.