私たちの腸の中には無数の細菌が棲みついていて、消化や免疫に関わっていることが知られています。これは魚も同じで、腸内細菌のバランスは魚の健康と深く関わっていると考えられています。では、魚が暮らす水温が変わると、腸内細菌の様子はどう変化するのでしょうか。今回紹介する研究は、日本の食卓でもおなじみのヒラメ(Paralichthys olivaceus)を対象に、水温が腸内細菌の多様性や機能にどのような影響を与えるのかを調べたものです。

この研究では、ヒラメを15℃(低温群)、20℃(中温群)、25℃(高温群)という3つの異なる水温条件で35日間飼育し、腸内細菌の構成や多様性がどう変化するかを観察しました。その結果、水温が上がるにつれて、腸内細菌の多様性(専門的には「アルファ多様性」と呼ばれる指標)が徐々に低下していく傾向が見られたということです。

さらに細かく細菌の種類を見てみると、低温群(15℃)と高温群(25℃)の間で、Sphingomonas echinoidesやPhotobacterium damselaeといった特定の細菌の割合に有意な差があったと報告されています。また、LEfSeという解析手法や相関解析を用いた結果、GammaproteobacteriaやAlphaproteobacteriaといった細菌のグループ、そしてSphingomonas属やPhotobacterium属の細菌の割合も、水温の違いによって大きく変わることが示されました。

この研究ではさらに一歩進んで、腸内細菌の構成データから、どのような機能が働いている可能性があるかを予測する解析も行われています。その結果、低温群では芳香族化合物の分解やアミノ酸代謝に関わる経路が多く予測された一方、高温群では病原性に関わる因子が多く予測されたとのことです。研究チームは、こうした違いがヒラメの消化機能や免疫機能に影響を及ぼす可能性があると考察しています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究はヒラメを用いた実験で得られた知見であり、腸内細菌の「構成」や「多様性」、そして統計的に予測された「機能」についての報告です。実際にヒラメの消化や免疫の働きがどう変化するかを直接測定したものではなく、あくまで細菌データからの予測に基づく示唆である点には注意が必要です。また、一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではありません。今後さらに研究が積み重ねられることで、水温と魚の腸内環境の関係についての理解が深まっていくことが期待されます。

まとめ

今回紹介した研究では、ヒラメを15℃・20℃・25℃という異なる水温で飼育した結果、水温が高くなるほど腸内細菌の多様性が低下する傾向や、特定の細菌の割合に違いが見られることが報告されました。さらに、機能予測解析では低温群でアミノ酸代謝関連の経路が、高温群では病原性因子が多く予測され、水温が腸内細菌叢の多様性や機能プロファイルに大きく影響しうることが示唆されています。水産養殖など、魚を育てる環境と健康の関係を考えるうえで、興味深い視点を提供する研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:温度がヒラメ(Paralichthys olivaceus)の腸内微生物多様性と予測機能に与える影響(フィッシーズ・2026年07月)