この研究は、アメリカ、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Functional Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:期待と実績のあいだにある隔たり

牛乳、卵、大豆、魚、穀物などに含まれるたんぱく質は、消化や発酵、酵素処理によって小さな断片に分かれます。そのうち、おおむねアミノ酸2〜20個ほどの長さで、栄養素としての働きを超えて体に何らかの作用をもたらす可能性があるものを「生理活性ペプチド」と呼びます。血圧、血糖、脂質、肥満など、心臓・血管と代謝に関わる健康(心代謝の健康)を支える食品成分として、これまで多くの研究が報告されてきました。

一方で著者らによれば、食品由来の生理活性ペプチドで治療薬として承認されたものはまだなく、公的に認められた健康強調表示も限られています。食品として規制上の機能性を認められた例は、乳由来のペプチドであるVPPとIPPを含む発酵乳製品など少数で、それも特定の地域の市場に限られるといいます。この総説は、こうした期待と実績のあいだの隔たりがなぜ生じているのかを分析し、根拠に基づく食品成分として育てていくための道筋を示すことを目的としています。

著者らは、既存の総説の多くが試験管内の酵素阻害試験や細胞実験に基づいて「治療に役立つ可能性」を論じており、臨床的な裏付けが乏しいまま、その言葉がゆるやかに使われがちだと指摘しています。

何をどう調べたか:作用の仕組みを3つの観点で格付け

本研究は、網羅性を目指す系統的レビューではなく、主張を検証するために研究を意図的に選んで批判的に論じる「叙述的レビュー」です。研究チームは三つの文献データベースを検索し、動物実験は2015年から2025年、ヒトの臨床試験は2005年から2025年に発表された英語の論文を対象としました。食品たんぱく質に由来するペプチドや分解物を口から与え、比較のための対照群を設け、心代謝に関わる測定値を少なくとも一つ報告した研究を取り上げています。英語文献に限ったため、日本語や中国語の研究が十分に反映されていない可能性があることも、著者ら自身が述べています。

特徴は、提案されている作用の仕組みごとに、根拠の強さを独自の枠組みで格付けした点です。観点は三つあります。一つ目は、効果そのものが複数の独立した研究グループで再現されているか。二つ目は、ペプチドが実際に作用すると考えられる組織で、関連する体内の経路が動いていることが確かめられているか。三つ目は、その経路を薬で遮断したり遺伝子を働かなくしたりしたときに効果が消えるかといった、因果関係を示す実験があるかです。

これらを組み合わせ、最も確かな「段階1(確認済み)」、複数の動物研究で再現されているが体内での到達の確認が欠ける「段階2(支持あり)」、試験管内の結果や相関的な観察にとどまる「段階3(提案段階)」に分けました。格付けは二人の著者がそれぞれ独立に行い、意見が分かれた場合は基準に照らして話し合って決めたとされています。

主な結果:最上位に達した仕組みはなかった

著者らが選んだ根拠の範囲では、段階1に達した作用の仕組みは一つもありませんでした。血圧を上げる体内の仕組み(レニン・アンジオテンシン系)に関わる酵素ACEの阻害、その反対方向に働く経路の活性化、血管の内側の細胞を介して血管を広げる作用、炎症に関わる信号の抑制、筋肉への糖の取り込み、血糖を調節するホルモンの分解を担う酵素DPP-IVの阻害などは段階2とされました。一方、試験管内で測る抗酸化力、肝臓などでの抗酸化酵素の誘導、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸を介した作用などは段階3にとどまりました。

論文は具体例も挙げています。卵由来のペプチドIRWは、試験管内では強いACE阻害作用を示しましたが、遺伝的に高血圧を発症するラットを使った研究では、ACEを直接阻害するのではなく、別の酵素ACE2の働きを高めることで血圧を下げていたと報告されています。さらに同じグループの研究では、IRWが体内に吸収される割合は11.7%で、標的とされる臓器には届いていないとされ、IRWによって体内で増えるドーパミンが効果を担っている可能性が示されました。著者らは、ペプチドそのものではなく、ペプチドが引き起こす体内の物質の変化が効果をもたらしている可能性に注意を促しています。

また著者らによると、食品由来の降圧ペプチドを作用するはずの場所で実際に検出し、同時にその場での作用も測定した報告は、1996年に乳由来のVPPとIPPをラットの大動脈で検出した研究だけでした。分析技術が大きく進歩したにもかかわらずこれが再現されていないのは、測れないからではなく、この分野が測定してこなかったためだと論じています。

研究の進め方にも課題が指摘されています。動物実験が遺伝的な高血圧ラットに偏っていて、食生活や加齢が関わるヒトの高血圧を十分に反映していない可能性があること。抗酸化作用の研究では、口から入ったペプチドがまず届く肝臓の値が測られることが多く、血管や心臓、腎臓での効果とは区別して考える必要があることなどです。降圧薬と併用すると効果が強まったという報告についても、血圧が下がりすぎる危険を含めて安全性を検討すべきだとしています。

この研究が示す意味

この総説は、食品由来の生理活性ペプチドに期待される作用の多くが、まだ「ありそうだ」や「繰り返し観察されている」段階にあり、ペプチドが標的の組織に届き、そこで経路を動かし、それが効果の原因であると一続きで示した根拠は不十分であることを整理しました。著者らは、実用化に近づけるためには、体内での吸収や分布の詳しい評価、腸内細菌の違いや性別を考慮した臨床試験、心代謝の明確な結果を十分な規模で確かめる研究が必要だとしています。期待の大きさと根拠の確かさを分けて見ることの大切さを、具体的な物差しとともに示した研究といえます。

著者:Prabhashis Bose(Department of Food Science & Technology, University of Nebraska-Lincoln, Lincoln, NE 68508, USA)、Brij Pal Singh(University Centre for Research and Development (UCRD), Chandigarh University, Mohali 140413, Punjab, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Prabhashis Bose, Brij Pal Singh. Food-derived bioactive peptides as functional ingredients for cardiometabolic health: Mechanistic insights, clinical translation, challenges, and future perspectives. Journal of Functional Foods 2026-10-04. DOI: 10.1016/j.jff.2026.107531. 原著ライセンス:CC BY.