著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ワインは地中海食の「健康によい要素」なのか

地中海食は、オリーブオイルや野菜、豆類、ナッツ、魚を中心とする食事パターンです。心血管疾患による死亡や、あらゆる原因による死亡(総死亡)のリスクの低さと関連することが、多くの研究で報告されてきました。地中海食をどの程度守っているかを点数化する指標の多くでは、食事とともに適量のワインを飲むことも、加点される項目に含まれています。

一方で、アルコールは確立された発がん物質でもあり、比較的少ない量でもがんのリスクが高まるという証拠があります。ワインは地中海食の本当に有益な構成要素なのか。それとも、観察されてきた関連は、研究方法の問題や飲まれる状況によって生じた見かけのものなのか。この論文は、ギリシャの栄養学研究者らがこの論争について自らの見解を示した「オピニオン論文」です。新たなデータを集めた研究ではなく、既存の研究を批判的に検討しています。

ワインをめぐる相反する証拠

著者らはまず、ワインを支持する側の証拠を紹介しています。スペインの大規模研究PREDIMEDの解析では、心血管・代謝疾患のリスクが高い参加者のうち、地中海食をよく守っていてワインを飲まなかった人では総死亡が23%低く、週7〜21杯の適量のワインも飲んでいた人では33%低かったと報告されています。また、ワイン摂取の客観的な目印となる体内物質(酒石酸)を用いた解析でも、少量から適量のワイン摂取と心血管疾患の発症の少なさとの関連が報告されています。

南イタリアの2つのコホート(同じ集団を長期間追跡する研究)からも知見が示されています。適量を、主にワインで、食事とともに飲む「地中海式の飲酒パターン」を地中海食と組み合わせている場合、ほかの飲み方に比べて、アルコールに由来する害の一部が小さく見えるというものです。

その一方で、国際がん研究機関(IARC)はアルコールを最も確実な発がん物質の区分(グループ1)に分類しています。1日2杯未満の飲酒でもがんのリスク上昇と関連するとしています。論文では、EUで2022年に推計146,194件のがんがアルコールに起因するとされたことも紹介されています。ただし著者らは、がんのリスクを伝えることと、心血管疾患などほかのリスクと比べたうえでの健康への差し引きの影響を見積もることは別だと指摘しています。

観察研究が抱える方法上の弱点

著者らは、ワインの効果を因果関係として認める前に、飲酒研究には乗り越えるべき方法上の課題があると論じています。代表的なのは「病気でやめた人」の問題です。比較の基準となる「飲まない人」のグループに、体調を崩して酒をやめた人が混ざると、適量飲酒者のほうが健康に見えてしまいます。症状が出始めて酒量を減らした人が「適量飲酒者」に分類されるという、逆向きの因果関係の問題もあります。

さらに、自己申告の質問票ではアルコール摂取量が実際の販売量に比べて40〜60%少なく報告されがちだという指摘や、飲酒する人としない人とで社会経済的な背景が大きく異なるという指摘も紹介されています。生まれつきの遺伝子の違いを「生涯の飲酒量の目安」として使う手法(メンデルランダム化)では、少量飲酒で死亡リスクが下がる関係は再現されず、摂取量が増えるほどリスクも一貫して高まる結果が示されたといいます。著者らは、この食い違いも慎重な解釈が必要な理由の一つだとしています。

こうした対立に決着をつける試みとして、スペインで進行中のUNATI試験も紹介されています。約1万人の習慣的な飲酒者を、禁酒する群と適量の飲酒を続ける群にランダムに分け、4年間追跡するものです。著者らは、この試験の存在自体が、科学界で結論がまだ定まっていないことを示していると述べています。

「隠れた効能」ではなく「隠れた文脈」

著者らの中心的な主張は、ワインそのものに「隠れた効能」を探すよりも、ワインが飲まれてきた「隠れた文脈」に目を向けるべきだというものです。地中海式の飲み方は、飲料の種類、量の節度、食事中に飲むこと、1週間への分散、人と食卓を囲む場面といった要素が一体になった行動パターンです。そのため、適量のワイン摂取は、単にエタノールやワイン由来の成分を体に取り入れること以上の意味を持ちうると論じています。

この見方に立つと、地中海食の点数からワインの項目を除くと健康との関連が弱まるという知見も、ワイン自体が効いている証拠とは限りません。ワインが、節度や構成要素どうしの相乗作用を重んじる生活様式全体を守っていることの「目印」として働いている可能性もあるからです。著者らは、ワインのポリフェノールなどの成分が生物学的な作用を持つ可能性は否定していません。ただし、成分に作用がありうることと、集団としてワインを飲むことが健康に正味の利益をもたらすことは別だと強調しています。

結論として著者らは、現在の証拠は一つの方向を指してはいないとしています。UNATI試験などのランダム化試験の結果が出るまでは、地中海食におけるワインの位置づけを、守る因子とも害する因子とも確定せず、十分な根拠のある未解決の仮説として扱うのが妥当だと述べています。同時に、人と食卓を囲む食文化の一部としてのワインの文化的な重要性も認めるべきだとしています。この論考は、一つの食品や飲料の効果を切り離して評価するのではなく、それがどのような暮らしの中で摂られているかを含めて考える視点を示しています。

著者:Matina Kouvari(Department of Nutrition and Dietetics, Nutritional Epidemiology and Communal Health Laboratory, School of Physical Education, Sports and Dietetics, University of Thessaly, 38221 Trikala, Greece)、Kalliopi Georgakouli(Department of Nutrition and Dietetics, School of Physical Education, Sport Science and Dietetics, University of Thessaly, 42130 Trikala, Greece)、Rena I. Kosti(Department of Nutrition and Dietetics, Nutritional Epidemiology and Communal Health Laboratory, School of Physical Education, Sports and Dietetics, University of Thessaly, 38221 Trikala, Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Matina Kouvari, Kalliopi Georgakouli, Rena I. Kosti. An Opinion Paper on the Cultural Heritage of Wine Consumption in the Frame of the Mediterranean Diet: The Missing Piece of the Puzzle. Nutrients 2026-10-14. DOI: 10.3390/nu18203374. 原著ライセンス:CC BY.