この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plant Science Today

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

カリフラワーでは、品質がそろい生産性の高いF₁雑種(一代雑種)が広く使われています。しかし雑種の種子を大量につくるには、花のおしべを一つずつ手で取り除く作業が必要で、手間と費用が大きな制約になります。そこで利用されるのが「雄性不稔」、つまり花粉が機能しない性質です。花粉をつくれない系統を母親側に使えば、おしべを除く作業をしなくても確実に交配ができます。

論文によると、アブラナ科作物の雑種種子生産では、もともと日本のダイコンで見つかり後にキャベツ類へ移された「オグラ細胞質」を用いた細胞質雄性不稔(CMS)が、現在ほぼ唯一の実用的な仕組みとして世界的に使われています。細胞質雄性不稔とは、細胞の核ではなく細胞質(ミトコンドリアなど)側の要因が核と組み合わさることで花粉が機能しなくなる現象です。ただし著者らは、オグラ細胞質をカリフラワーに導入すると、蜜腺の発達不良、花が小さくなる、子房の変形、種子のつきにくさといった不都合が報告されてきたことを先行研究として挙げています。

こうした背景のもとで研究チームは、実際に育成されているCMS系統と、その「維持系統」(同じ核の遺伝的背景をもち花粉は正常な、CMS系統を増やすための相手)を並べて比較し、花の形質と種子のつき方をどこまで違えるのかを整理することを目的としました。

どのように調べたか

調査は、インド・ヒマーチャルプラデーシュ州ソーラン近郊ナウニにある大学の野菜学部門の試験圃場で、2021〜22年と2022〜23年のラビ作(冬作)の2作期にわたって行われました。対象は20系統のCMS系統と、それぞれに対応する20系統の維持系統、合わせて40系統です。9月に苗を育て、10月上旬に畑へ定植し、乱塊法(3反復)という一般的な圃場試験の配置を用いました。CMS系統の区画のすぐ隣に対応する維持系統の区画を置き、比較しやすくしています。

記録したのは、花弁の色、花弁の長さと幅、がく片の長さ、花柱(めしべの柄の部分)の形、花糸(おしべの軸)の長さ、花の大きさ、機能する蜜腺の有無、花粉の生存率という9つの花の形質と、さやの長さ、一次枝・二次枝の数、二次枝と一次枝の比といった収量に関わる形質です。花粉の生存率は、アセトカーミンという色素で染めて顕微鏡で観察し、よく染まって中身の詰まった花粉を生存とみなす方法で測りました。各系統・各反復から無作為に選んだ10株を観察し、2年分のデータをまとめて、CMS系統とその維持系統を一対一で比べる対応のあるt検定などで解析しています。

報告された主な結果

著者らは、調べた形質の多くでCMS系統と対応する維持系統のあいだに統計的に有意な差があったと報告しています。平均値でみると、花弁の長さはCMS系統13.67 mmに対し維持系統17.38 mm、花弁の幅は5.26 mmに対し7.49 mm、がく片の長さは7.64 mmに対し8.89 mm、花糸の長さは4.34 mmに対し8.00 mmで、いずれもCMS系統のほうが有意に小さい値でした。花の大きさでは、CMS系統はおおむね中程度(15 mm未満)に分類され、維持系統は大(15 mm超)に分類されました。ただし機能する蜜腺については、CMS系統と維持系統のすべてで存在が確認されたとされています。

種子のつき方に関わるさやの長さは、CMS系統で4.00 cm(UHF-CAU-6A)から7.97 cm(UHF-CAU-9A)、維持系統で5.40 cm(UHF-CAU-5B)から9.60 cm(UHF-CAU-18B)の幅がありました。平均ではCMS系統5.32 cmに対し維持系統7.24 cmで、CMS系統のほうが有意に短いという結果です。枝の数も、一次枝(平均10.10本対12.41本)、二次枝(平均29.72本対36.47本)ともにCMS系統で有意に少なくなりました。一方、二次枝と一次枝の比については、平均値(2.94対2.91)に有意な差はみられませんでした。花粉の生存率は花粉が機能する維持系統についてのみ測定され、84.05%(UHF-CAU-8B)から94.60%(UHF-CAU-18B)の範囲でした。

個々の系統についても著者らは特徴を挙げています。CMS系統のUHF-CAU-12Aは子房の形質を中心に他の系統と明確に区別され、さやの長さなど種子生産に関わる形質ではCMS系統のUHF-CAU-20Aが有望だったとされています。維持系統では、花弁の長さと幅、がく片の長さ、花粉の生存率といった花の主要形質でUHF-CAU-4BとUHF-CAU-7Bが優れており、種子のつき方や収量関連の形質ではUHF-CAU-16Bが良好だったと報告されています。なお、花弁の色は1系統(UHF-CAU-17A)だけが白で他はすべて黄色、花柱の形と子房の形についてはUHF-CAU-9Aとその維持系統UHF-CAU-9Bがともに湾曲型を示しました。

この結果が示すこと

この研究が伝えているのは、雄性不稔という便利な性質はただ「花粉ができない」だけの変化ではなく、花弁やがく片の大きさ、おしべの軸の長さ、さやの長さ、枝の数といった生殖に関わる部分全体に及ぶ影響を伴う、ということです。著者らは、オグラ細胞質の導入がカリフラワーの花の発達に不利に働き、それが種子のつきやすさや種子収量を損なうと結論づけています。

同時に、その影響の大きさは系統ごとに異なっていました。だからこそ、花と種子のつくりを一つずつ実測して系統を見極める作業には意味があります。著者らは、今回特徴づけられたCMS系統と維持系統が、インドにおける雑種育種と雑種種子生産に活用できる可能性をもつと述べています。地味な形質の測定の積み重ねが、育種の現場でどの系統を選ぶかという判断を支えている、という研究です。

著者:Arshia Prashar(Department of Vegetable Science and Floriculture, College of Agriculture, Chaudhary Sarwan Kumar Himachal Pradesh Krishi Vishvavidyalaya, Palampur 176 062, Himachal Pradesh, India)、K M Devinder(Department of Vegetable Science, College of Horticulture, Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni, Solan 173 230, Himachal Pradesh, India)、Ramesh Kumar(Department of Vegetable Science, College of Horticulture, Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni, Solan 173 230, Himachal Pradesh, India)、S. D. Payal(Department of Vegetable Science and Floriculture, College of Agriculture, Chaudhary Sarwan Kumar Himachal Pradesh Krishi Vishvavidyalaya, Palampur 176 062, Himachal Pradesh, India)、T Rupali(Department of Vegetable Science, College of Horticulture, Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni, Solan 173 230, Himachal Pradesh, India)、Pooja(Department of Vegetable Science and Floriculture, College of Agriculture, Chaudhary Sarwan Kumar Himachal Pradesh Krishi Vishvavidyalaya, Palampur 176 062, Himachal Pradesh, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arshia Prashar, K M Devinder, Ramesh Kumar, et al. Breeding potential of Ogura cytoplasmic male sterility lines of Indian cauliflower revealed through floral and reproductive characterisation. Plant Science Today 2026-09-27. DOI: 10.14719/pst.14282. 原著ライセンス:CC BY.