著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Brazilian Journal of Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ミナス職人チーズ(Minas Artisanal Cheese)はブラジルで広く食べられているチーズで、その伝統的な製法は2024年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。伝統的には生乳、塩、動物由来のレンネット、そして「ピンゴ」と呼ばれる天然のスターターの4つの材料で作られます。

ピンゴは、チーズに塩をまぶす工程で流れ出たホエイ(乳清)を集めたもので、常温でおよそ15時間置いた後、翌朝の生乳に加えて発酵を始めさせます。前日の発酵物の一部を次の仕込みに使う、いわゆる「植え継ぎ」の仕組みです。ピンゴの中では乳酸菌が主役として酸を作りますが、酵母に加えて、大腸菌群や黄色ブドウ球菌といった衛生上望ましくない微生物も見つかることが過去に報告されています。

このチーズは伝統的に認められた10の小地域で作られており、各地には乾季と雨季があります。しかしこれまでの研究は特定の地域や短い期間に限られていました。研究チームは、季節や年、搾乳場の設備、生産規模といった要因が、ピンゴに含まれる主な微生物の数の違いを説明するかどうかを、10地域すべてを対象に複数回の調査で確かめることを目的としました。

調査の方法

研究チームは、10の小地域に分布する50のチーズ製造所から、2024年と2025年の2年にわたり、乾季に2回、雨季に2回の計4回ピンゴを採取し、合計200試料を分析しました。対象とした製造所は、公的な衛生許可を持ち、安定して生産を続けているところです。

測定したのは、乳酸菌(2種類の培地で計数)、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、カビ・酵母の数と、ピンゴの酸性度(pH)および塩分濃度です。各製造所については、生産規模(1日20個以下を小規模、それを超えるものを中〜大規模)や搾乳場の床・屋根の有無なども記録しました。微生物数は10を底とする対数で表され、値が1増えると菌数はおよそ10倍になります。分析では、同じ製造所を繰り返し調べたことや地域ごとのまとまりを考慮した統計モデルを用いています。

主な結果

発酵の担い手である乳酸菌は5つのグループの中で最も多く、中央値はおよそ1mLあたり10の7.4乗前後でした。著者らによると、乳酸菌の数は季節によって差がなく、年をまたいでも一貫した変動は見られませんでした。

一方、大腸菌群は雨季に多く、その差は約10倍に相当しました。この季節差は2024年と2025年の両方で再現され、大腸菌群について統計的に有意だった要因は季節だけでした。カビ・酵母も雨季に多く、さらに季節とは別に2025年のほうが多いという年の違いも見られました。

最も際立った結果として著者らが挙げるのは黄色ブドウ球菌です。2024年は乾季と雨季でほとんど差がなかったのに対し、2025年は乾季のほうが大きく上回り、その差は対数で2.62、平均的な菌数でおよそ400倍に達しました。つまり、季節の影響の現れ方が年によって異なっていたことになります。何がこの年の違いをもたらしたのかは今回のデータからは特定できないと、著者らは述べています。また黄色ブドウ球菌は、中〜大規模の製造所のほうが小規模の製造所より多い傾向がありました。

これに対し、ピンゴのpHや塩分濃度、搾乳場の床や屋根といった設備は、調査データの構造を考慮して分析すると、どの微生物グループの数とも関連が見られませんでした。pHや塩分は試料間で大きくばらついていたため、範囲が狭かったから関連が出なかったわけではないと著者らは説明しています。

研究が示すこと

論文は、ピンゴの発酵を担う乳酸菌は季節や年を通じて安定している一方、衛生や品質の劣化に関わる微生物は季節などの条件で大きく変動すると結論づけています。乳酸菌が多いことは衛生状態が良いことの目印にはならない、という点も指摘されています。

著者らは、大腸菌群とカビ・酵母がともに増える雨季を、微生物管理上のリスクが高まる時期と位置づけ、この時期に搾乳前の衛生やピンゴを置く環境の管理を強めることが妥当だとしています。また、黄色ブドウ球菌の結果は、1年だけの調査では季節の影響を見誤りうることを示しており、天然スターターの研究には複数年にわたる季節ごとの調査が必要だと述べています。なお、今回の方法は菌の数を測るもので、どの種類の微生物で構成されているかまでは明らかにしていません。伝統的な製法そのものを否定せずに、管理を重点化すべき時期を示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Gustavo Augusto Lacorte(Federal Institute of Minas Gerais, Bambuí Campus, Bambuí, Minas Gerais State, Brazil. [email protected])、Daniel Arantes Pereira(Experimental Unit Risoleta Neves, Agricultural Research Company of Minas Gerais (EPAMIG), São João Del Rei, São João del-Rei, Minas Gerais State, Brazil)、Joao Paulo Andrade de Araújo(Experimental Unit Risoleta Neves, Agricultural Research Company of Minas Gerais (EPAMIG), São João Del Rei, São João del-Rei, Minas Gerais State, Brazil)、Danielle Stornino de Freitas(Experimental Unit Risoleta Neves, Agricultural Research Company of Minas Gerais (EPAMIG), São João Del Rei, São João del-Rei, Minas Gerais State, Brazil)、Gabriel Henrique Oliveira Silva(Federal Institute of Minas Gerais, Bambuí Campus, Bambuí, Minas Gerais State, Brazil)、Jaqueline Flaviana Oliveira de Sá(Agricultural Research Company of Minas Gerais - Headquarters, Belo Horizonte, Minas Gerais, Brazil)、Jonas e Silva Guimarães(Federal Institute of Minas Gerais, Bambuí Campus, Bambuí, Minas Gerais State, Brazil)、Milene Therezinha das Dores(Rio Paranaíba Campus, Federal University of Viçosa, Rio Paranaíba, Minas Gerais State, Brazil)、Fernanda Faria Quadros(Technical Department, Technical Assistance and Rural Extension Company of the State of Minas Gerais, Minas Gerais State, Belo Horizonte, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gustavo Augusto Lacorte, Daniel Arantes Pereira, Joao Paulo Andrade de Araújo, et al. Temporal and production-related determinants of microbial counts in pingo, the natural starter culture of minas artisanal cheese. Brazilian Journal of Microbiology 2026-10-16. DOI: 10.1007/s42770-026-02118-0. 原著ライセンス:CC BY.