この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

病院の食事に耐性菌は潜んでいないか

カルバペネムは、抗菌薬の中でも重要な位置を占めるβ-ラクタム系の薬の一群です。この薬を分解する酵素「カルバペネマーゼ」をつくる腸内細菌の仲間(腸内細菌目。大腸菌や肺炎桿菌などを含むグループ)は、世界的な公衆衛生上の課題とされています。こうした菌は人の感染症でよく見つかりますが、近年は環境や動物、食品からの報告も増えています。そのため、食べ物を通じて人に定着したり感染したりする別の経路になり得るのではないかと懸念されています。

ラテンアメリカでは、KPC型と呼ばれるカルバペネマーゼをつくる菌が病院内ですでに広く定着しており、NDM型をつくる菌の報告も増えています。ブラジルでも生野菜や調理済み食品からこうした菌が見つかっています。研究チームはこれを踏まえ、ブラジル南東部の高度医療を担う教育病院で、入院患者に配られる食事を調べる監視研究を行いました。

配膳直前の食事191検体を調査

調査期間は2022年5月から2023年4月までの1年間です。病院の給食部門から、患者に配膳される直前の食事を191検体採取しました。対象は牛肉・豚肉・鶏肉を使った料理と生のサラダです。検体は、β-ラクタム系抗菌薬が効きにくい腸内細菌目の菌が育ちやすい条件で培養し、得られた菌の種類を特定しました。

カルバペネム系の薬が効かない菌については、カルバペネマーゼをつくっているかを調べ、主要な酵素の遺伝子の有無を確認しました。カルバペネマーゼをつくる菌については全遺伝情報(ゲノム)を解読し、耐性遺伝子、病原性に関わる遺伝子、人に病気を起こす可能性の予測などを解析しました。あわせて、胃や腸の環境を想定した幅広い酸性度(pH)の中で菌が生き残れるかも試験しています。

人の感染ではあまり見られない4株を確認

1年間の調査で腸内細菌目の菌が79株得られ、そのうち10株(12.7%)がカルバペネマーゼをつくる菌でした。一部は研究チームが過去に報告済みで、今回の論文では、人の感染症ではまれな種類と判明した4株を中心に報告しています。牛肉料理からはSuperficieibacter electus、キャベツのサラダからはPseudocitrobacter faecalisが見つかりました。この2株はKPC-2型の酵素遺伝子をもっていました。さらに、2023年1月のキャベツのサラダと同年4月のレタスのサラダから、NDM-1型の遺伝子をもつLeclercia adecarboxylataが1株ずつ見つかりました。

4株とも、調べたβ-ラクタム系の薬すべてに耐性を示しました。カルバペネマーゼの遺伝子は、いずれもプラスミドと呼ばれる染色体とは別の小さなDNA上にありました。4株はpH4〜9の条件で24時間まで生き残り、うち1株はpH3でも少なくとも1時間耐えました。ゲノム解析では、4株すべてが人の病原体となる可能性が高いと予測され、べん毛や莢膜(きょうまく)、鉄の取り込みなどに関わる病原性関連遺伝子も見つかりました。著者らによると、KPC-2遺伝子をもつS. electusの報告は、知る限りこれが初めてです。

2株のL. adecarboxylataは、採取時期が約3か月離れ、別々のサラダから得られたにもかかわらず、遺伝情報の違いが9塩基とごくわずかでした。研究チームが公開データベース上の同種24株のゲノムと比べたところ、それらの株同士はおおむね大きく異なっていました。このことから著者らは、今回の2株には共通の発生源があることが強く示唆されると述べています。ただし、なぜ似た菌が時期を隔てて見つかったのかについては、今回の研究はその問いに答えるようには設計されていないとしています。

見落とされがちな耐性菌の経路

今回見つかった菌は、人の病原体としてはあまり注目されてきませんでした。しかし、カルバペネム耐性遺伝子をもち、ほかの菌へ遺伝子を受け渡す貯蔵庫として働く可能性があります。研究チームは、病院ですぐに食べられる状態の食事にこうした菌が含まれていたことを懸念すべき結果としています。食品が耐性遺伝子の思いがけない供給源となり、患者への定着を通じて治療の難しい感染につながる可能性があると指摘しました。

著者らは、食品の安全性を評価する際に、衛生状態の指標となる大腸菌群などに加えて、世界保健機関が最重要とする耐性菌がいないことも基準にすべきだと述べています。そのうえで、人・動物・環境を一体としてとらえる「ワンヘルス」の考え方に立った継続的な監視が重要だと結論づけています。

著者:Bianca L. C. de Godoy(Center for Microorganism Research, Faculdade de Medicina de São José do Rio Preto—FAMERP)、Giovana Rosa(Center for Microorganism Research, Faculdade de Medicina de São José do Rio Preto—FAMERP)、Mara C. L. Nogueira(Center for Microorganism Research, Faculdade de Medicina de São José do Rio Preto—FAMERP)、Nilton Lincopan⁹(Antimicrobial Resistance Institute of São Paulo (ARIES))、Tiago Casella(Center for Microorganism Research, Faculdade de Medicina de São José do Rio Preto—FAMERP)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bianca L. C. de Godoy, Giovana Rosa, Mara C. L. Nogueira, et al. Carbapenemase-producing rare Enterobacterales in hospital food: a Latin American one health blind spot. Frontiers in Microbiology 2026-10-07. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1978607. 原著ライセンス:CC BY.