この研究は、韓国、タイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
がん治療などに使われるシクロホスファミド(CY)という薬剤は、がん細胞の増殖を抑える一方で、免疫のはたらきを低下させる作用が知られています。そのため、免疫の低下をやわらげる自然由来の成分を探す研究が各地で進められてきました。
研究チームが注目したのは、ニジマス(学名 Oncorhynchus mykiss)の卵に含まれる脂質です。ニジマスは冷たい淡水で育つ養殖の盛んな魚で、その卵は魚肉よりも多価不飽和脂肪酸(PUFA)を多く含むことが報告されています。ただし論文によれば、これまでニジマスの卵から取り出した脂質が免疫を高めるはたらきを持つかどうかは調べられていませんでした。そこで著者らは、CYによって免疫が抑えられたマウスに、この脂質を与えたときに免疫のはたらきがどう変わるかを調べました。
どのように調べたか
著者らは、凍結乾燥したニジマスの卵の粉末から、クロロホルムとメタノールを使って脂質を取り出しました。取り出した脂質は、医薬品の運搬役として広く使われるPEG6000という水になじみやすい高分子と1対1の重量比で混ぜ合わせ、「OM-PEG」と名づけた試料に仕上げています。
実験には6週齢の雄のBALB/c系マウスを用い、9つのグループ(1グループ3匹)に分けました。正常対照群のほかに、CYだけを投与する群、陽性対照として紅参やレバミゾールを与える群、PEG6000のみを与える群、そしてOM-PEGを体重1kgあたり50・100・150・200mgの4段階で与える群を設けています。試料は10日間連日で経口投与し、4〜6日目にはCYを腹腔内に注射して免疫抑制状態をつくりました(正常対照群を除く)。
評価の指標としては、脾臓の重さを体重で割った「脾臓指数」、脾臓のリンパ球が刺激に応じて増える度合い、がん細胞を攻撃するNK細胞の活性、腹腔内のマクロファージ(異物を取り込んで処理する免疫細胞)の取り込み能力と一酸化窒素(NO)の産生量、さらに免疫にかかわる遺伝子の発現量が用いられました。
報告された主な結果
まず試料の成分分析では、OM-PEGから12種類の脂肪酸が確認されました。そのうち多価不飽和脂肪酸が全体の46.71%と最も多く、一価不飽和脂肪酸が29.43%、飽和脂肪酸が23.86%と報告されています。多価不飽和脂肪酸にはEPAやDHAも含まれていました。
CYを注射したマウスでは、脾臓指数、リンパ球の増殖、NK細胞の活性、マクロファージの取り込み能力とNO産生のいずれもが低下し、免疫にかかわる遺伝子の発現も下がりました。これに対してOM-PEGを与えた群では、これらの指標がそろって回復する方向に変化したと報告されています。脾臓指数では、体重1kgあたり150mgを与えた群が3.10mg/gとOM-PEG群のなかで最も高い値を示し、陽性対照である紅参群(2.68mg/g)やレバミゾール群(3.13mg/g)と比べても遜色ない水準でした。
NK細胞の活性についても、150mg/kgの投与量で正常な水準まで戻ったと述べられています。リンパ球の増殖、マクロファージのはたらき、免疫関連遺伝子の発現も、50〜150mg/kgの範囲では量が増えるにつれて効果が高まる傾向がみられました。一方で200mg/kgではいずれの指標でも150mg/kgよりわずかに効果が下がっており、著者らは投与量を増やしてもそれ以上の上乗せはなかったと考察しています。
なお著者らは、この研究の限界も記しています。1グループ3匹という少なさが統計的な説得力を制限しうること、実験期間中の食事量や体重変化を測っていないこと、ビタミンEやミネラルなど脂肪酸以外の栄養成分を調べていないことが挙げられています。
この結果が示すこと
この研究は、ニジマスの卵から取り出した脂質が、薬剤によって免疫が抑えられたマウスにおいて、免疫にかかわる複数の指標を同じ方向に改善させたことを報告しています。脾臓という免疫器官の状態から、リンパ球やNK細胞、マクロファージといった個々の細胞のはたらき、さらに遺伝子レベルの反応まで、一貫した変化が観察された点が特徴です。
著者らはこの結果を、海洋由来の天然素材が免疫の維持を支える食品素材となりうる可能性を示すものと位置づけつつ、そのしくみや個々の脂肪酸の寄与を明らかにするにはさらなる検討が必要だとしています。
著者:One Jun Kim(Department of Wellness-Bio Industry, Kangwon National University, Gangneung)、JeongUn Choi(Department of Marine Food Science and Technology, Kangwon National University, Gangneung)、Weerawan Rod–in(Center of Excellence in Research for Agricultural Biotechnology, Naresuan University)、A-yeong Jang(Department of Marine Food Science and Technology, Kangwon National University, Gangneung)、Purna Chandra Mashurabad(East Coast Life Science Institute, Kangwon National University, Gangneung)、Sang-Min Lee(Department of Aquatic Life Medicine, Kangwon National University, Gangneung)、Seok Kyu Jung(Department of Horticultural Science, Kongju National University)、Woo Jung Park(Department of Marine Convergence Science, Kangwon National University, Gangneung)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):One Jun Kim, JeongUn Choi, Weerawan Rod–in, et al. Immune effects of lipids isolated from Oncorhynchus mykiss eggs on cyclophosphamide-induced immunosuppression in mice. Frontiers in Nutrition 2026-09-03. DOI: 10.3389/fnut.2026.1842601. 原著ライセンス:CC BY.