著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食事の内容だけでなく、食べる時間帯も健康に関わるのではないかという考えから、1日の食事を一定の時間内に収める「時間制限食(TRE)」が注目されています。この方法は定期的な運動と組み合わせて研究されることも増えていますが、そうした生活習慣の変化に伴って、心の状態と体内の物質の変化がどう関係するのかは、十分には調べられていませんでした。
研究チームが注目したのは、食事から摂る必須アミノ酸のトリプトファンが体内で分解されてできる「キヌレニン経路」の代謝物です。これらの物質は代謝や免疫、脳の働きに関わるとされ、これまでの実験的研究では、神経を保護する方向の働きが示唆されるものと、条件によっては神経に有害となりうるものの両方が報告されています。また、うつ病などの人では一部の代謝物が高いことも報告されています。
そこで著者らは、時間制限食と持久運動を12週間組み合わせたときに、気分や不安の変化と、血液中のキヌレニン経路代謝物の変化が同時に起こるかどうかを調べました。
何を調べたか
対象は35歳以上の健康な成人71人です。60歳以上の参加者はノルディックウォーキング、35〜50歳の参加者はウォーキングとランニングを組み合わせた運動を、週3回、12週間(計36回)行いました。あわせて、1日の食事を10時間以内に収め、残りの14時間は食べない時間帯とする時間制限食を続けました。食事の種類や量は変えず、食べる時間帯だけを変えるよう指示されています。なお、この解析の参加者は全員が同じ組み合わせの介入を受けています。
介入の前後で、質問票による気分と不安の評価、体組成、炎症に関わる血液中の指標、そしてトリプトファンとキヌレニン経路の代謝物の濃度が測定されました。
あらかじめ計画されていた主な解析は、参加者全体での前後比較です。これに加えて、年齢別(60歳以上のグループと35〜50歳のグループ)の比較や、不安の点数が下がった人とそうでない人に分けた比較が、事後的な「探索的解析」として行われました。探索的解析は、新しい仮説の手がかりを探すためのもので、結論を確かめるものではないと著者らは位置づけています。
主な結果
参加者全体では、体重、体脂肪量、BMI、体脂肪率が介入後に有意に減少し、腕や脚の筋力、柔軟性、敏しょう性とバランスなど、複数の体力測定でも成績が向上しました。一方、あらかじめ計画された全体解析では、気分や不安、キヌレニン経路の代謝物、炎症の指標に、統計的に有意な変化や臨床的に意味のある変化は認められませんでした。
年齢別の探索的解析では、両グループとも体重とBMIが低下しました。代謝物の一つであるアントラニル酸は、60歳以上のグループで増加(1リットルあたり7.85ナノモル増)し、35〜50歳のグループでは減少(同2.62ナノモル減)しました。60歳以上のグループでは、炎症に関わる物質TNF-αの低下や、神経保護との関連が実験的に示唆されている代謝物と3-ヒドロキシキヌレニンとの比率の上昇もみられました。また、介入前に両グループの間にあった一部の代謝物比率の差は、介入後には見られなくなっていました。
不安に注目した探索的解析では、心理評価のデータがそろった51人のうち34人(66.7%)で、介入後に不安の点数が低くなっていました。このグループでは、条件によって神経に有害となりうるとされる3-ヒドロキシキヌレニンの血中濃度も低くなっていました。ただし著者らは、これはこの特定のグループに限られた観察であり、参加者全体で3-ヒドロキシキヌレニンが減ったと解釈すべきではないと強調しています。
研究から見えること
この研究では、時間制限食と持久運動を組み合わせた12週間の取り組みで、参加者全体として気分や不安、トリプトファン代謝の明確な変化は確認されませんでした。一方で、年齢や不安の変化の方向で分けて見ると、心の状態の変化と血液中のキヌレニン経路代謝物の変化が同時に現れる可能性がうかがえました。
著者らは、これらの結果はあくまで関連を示すもので、仮説を生み出す段階のものであり、介入の効果や因果関係を示すものではないとしています。年齢や個人の反応の違いによって、生活習慣の変化に伴う体内の変化の現れ方が異なるかもしれないという視点を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Ulana Juhas(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland)、Dagmara Budnik-Przybylska(Division of Sport Psychology, Faculty of Social Sciences, Institute of Psychology, University of Gdansk, Bazynskiego 4, 80-309 Gdansk, Poland)、Andżelika Borkowska(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland)、Jakub Antoni Kortas(Department of Health and Natural Sciences, Gdansk University of Physical Education and Sport, Kazimierza Gorskiego 1, 80-336 Gdansk, Poland)、Joanna Reczkowicz(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland)、Ewa Ziemann(Department of Athletics, Strength and Conditioning, Poznan University of Physical Education, Krolowej Jadwigi 27/3, 61-871 Poznan, Poland)、Katarzyna Prusik(Department of Sport, Gdansk University of Physical Education and Sport, Kazimierza Gorskiego 1, 80-336 Gdansk, Poland)、Damian Flis(Department of Pharmaceutical Pathophysiology, Faculty of Pharmacy, Medical University of Gdansk, 80-210 Gdansk, Poland)、Grażyna Gałęzowska(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland; Department of Environmental Engineering Technology, Faculty of Civil and Environmental Engineering, Gdansk University of Technology, Narutowicza Str. 11/12, 80-233 Gdansk, Poland)、Konrad Kowalski(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland)、Malgorzata Zychowska(Department of Sport, Faculty of Physical Education, Kazimierz Wielki University, 85-064 Bydgoszcz, Poland)、Barbara Kaczorowska-Hać(Faculty of Health, WSB Merito University, 80-266 Gdansk, Poland)、Jędrzej Antosiewicz(Department of Bioenergetics and Physiology of Exercise, Medical University of Gdansk, Dębinki 1, 80-211 Gdansk, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ulana Juhas, Dagmara Budnik-Przybylska, Andżelika Borkowska, et al. Changes in Mood and Tryptophan Metabolism Following a 12-Week Endurance Exercise Combined with Time-Restricted Eating in Healthy Adults. Nutrients 2026-09-22. DOI: 10.3390/nu18193116. 原著ライセンス:CC BY.