著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Frontiers in Immunology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
子宮内膜症は、本来は子宮の内側を覆っている組織に似た組織が、子宮以外の場所で増える慢性の炎症性疾患です。生殖年齢の女性のおよそ10%、世界全体ではおよそ1億9千万人が罹患しているとされ、慢性の骨盤痛や不妊、生活の質の低下と関わる病気として知られています。ポーランドのウッチ医科大学に所属する研究者らが、これまでに発表された論文をもとに、子宮内膜症の免疫の仕組みと、食事や栄養素がその仕組みにどう関わりうるかを整理したレビュー論文を発表しました。今回の記事では、そこで紹介されている研究知見を紹介します。
この論文は2021年から2026年6月までにPubMedデータベースに登録された文献を、「endometriosis」「nutrition」「inflammation」「immune dysregulation」などのキーワードで検索し、細胞を使った実験、動物を使った実験、そして人を対象にした臨床試験を対象に選定を行い、最終的に56件の文献をもとにまとめられたものです。
子宮内膜症では免疫細胞にどんな変化が起きているのか
子宮内膜症の患者では、骨盤の中を満たす腹膜の液体(腹腔内の液体)や病変組織で、複数の種類の免疫細胞に量や働きの変化が見られると報告されています。たとえば、異所性の病変組織では病変の血管新生に関わるとされるM2型のマクロファージ(貪食細胞の一種)が増えているとの報告があり、マクロファージが神経線維の近くに集まることが痛みと関連する可能性も指摘されています。また、肥満細胞(マストセル)は、正常な子宮内膜に比べて病変組織で密度が高いことが確認されており、ヒスタミンやトリプターゼといった物質を分泌することで、痛みの感作や組織のリモデリング(再構築)に関わっている可能性が論じられています。動物実験では、気管支拡張薬として使われるサルブタモール、ポリフェノールの一種フィセチン、補酵素Q10、カンナビジオールといった物質が、マウスやラットのモデルで肥満細胞の働きを抑え、病変の進行を抑制したとする報告も紹介されていますが、著者らはこれらがあくまで動物実験の結果であり、人での有効性を示す臨床データはまだ無いと明記しています。このほか、好中球やナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞についても、患者では数や機能に変化が見られ、異所性の組織を排除する免疫の働きが弱まっている可能性が挙げられています。
食事や栄養素は免疫の働きにどう関わりうるか
論文では、こうした免疫細胞の働きに、食事由来の成分が影響しうるという、主に基礎研究の段階にある知見が多数紹介されています。たとえばビタミンD、短鎖脂肪酸、食物繊維、ポリフェノールの一種であるレスベラトロールは、NF-κBやAMPK、STAT6といった細胞内の情報伝達の仕組みを介して、マクロファージの性質や炎症性の反応を変化させる可能性が示されているといいます。オメガ3系の多価不飽和脂肪酸やビタミンC・Eは好中球の働きに、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といったオメガ3系脂肪酸、ビタミンC、緑茶に含まれる成分エピガロカテキンガレート(EGCG)はNK細胞の働きに関わる可能性があるとされています。また、地中海式の食事パターンや、その構成要素であるオメガ3脂肪酸やビタミンDは、樹状細胞の成熟や抗原提示の働きにも影響しうると述べられています。このほか論文の要旨部分では、低FODMAP食やグルテンフリー食、プロバイオティクスといった食事介入についても、腸内細菌のバランスの乱れや酸化ストレス、エストロゲンの代謝との関連から検討されています。
子宮内膜症の発症に関わる要因としては、遺伝的な素因が大きいとされ、WNT4遺伝子やFN1遺伝子、免疫の働きに関わるHLA-G遺伝子などの特定の遺伝子多型が、これまでの研究で報告されています。加えて、化粧品などに含まれる内分泌かく乱物質、体格指数(BMI)、飲酒といった環境・生活習慣の要因、逆に授乳が発症リスクの低下と関連するといった報告も、このレビューでは紹介されています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
著者らは、特定の食事介入を支持するだけの十分な臨床データはまだ乏しく、現時点で示されている栄養面の指針の多くは、予備的な研究にとどまっていると明確に述べています。今回紹介した肥満細胞やマクロファージへの作用の多くも、マウスやラットを用いた動物モデルでの知見であり、そのまま人に当てはまるかどうかは今後の検証が必要です。著者らは、今後は栄養介入と免疫プロファイリング、腸内細菌叢の解析、マルチオミクス技術を組み合わせた研究によって、子宮内膜症を持つ女性一人ひとりに合わせた栄養戦略の検討が進む可能性があるとしています。なお、この論文にはウッチ医科大学(ポーランド)に所属する研究者が著者として名を連ねていますが、提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣に関する具体的な記述は見当たりませんでした。
まとめ
子宮内膜症は、マクロファージや肥満細胞、NK細胞といった免疫細胞の働きの乱れと、慢性的な炎症が絡み合って進行すると考えられている病気です。今回紹介したレビュー論文は、ビタミンDやオメガ3脂肪酸、ポリフェノール類などの食事由来成分が、こうした免疫の仕組みに影響しうるという基礎研究の知見を整理したものであり、特定の食品や成分が症状の予防や治療に直接効果があると結論づけたものではありません。あくまで一つのレビューであり、著者ら自身が臨床的な裏づけの乏しさを指摘している段階の研究であることを踏まえて読む必要があります。
原著論文の著者・所属:Julia Duraj(Department of Molecular Neurochemistry, Medical University of Lodz)、Klara Kowalczyk(Department of Microbiology, Genetics and Experimental Immunology, Centre of Molecular Studies on Civilization Diseases MOLecoLAB, Medical University of Lodz)、Paulina Żelechowska(Department of Microbiology, Genetics and Experimental Immunology, Centre of Molecular Studies on Civilization Diseases MOLecoLAB, Medical University of Lodz)、Justyna Agier(Department of Microbiology, Genetics and Experimental Immunology, Centre of Molecular Studies on Civilization Diseases MOLecoLAB, Medical University of Lodz)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Julia Duraj, Klara Kowalczyk, Paulina Żelechowska, et al. Immune-nutritional interactions in endometriosis: current evidence and future perspectives in disease management. フロンティアーズ・イン・イムノロジー (2026). DOI: 10.3389/fimmu.2026.1940772. 原著ライセンス: cc-by.