この研究は、リトアニア、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Plants People Planet
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
夏の日が長い地域へ、キビはどう広がったのか
研究チームは、キビが中国北部からユーラシアの西方・北方へ広がる過程で、昼の長さに対する反応の変化が重要だったのかを調べました。キビは紀元前6000年ごろに中国北部で栽培化され、青銅器時代には中央アジアを経てヨーロッパへ広がった作物です。
キビは一般に、昼が短くなると花をつけやすい「短日植物」です。しかし、北方では夏の昼が長いうえ、栽培できる暖かい期間が短くなります。花をつける時期が遅れると、寒くなる前に種子を実らせられません。著者らは、昼の長さに左右されにくい性質が、こうした地域での栽培を支えたと考えました。
長い昼のもとで、各地の系統を比較
研究チームは、ユーラシア各地に由来する188系統のキビを使い、温室で二つの栽培実験を行いました。一つは43系統を対象に、人工照明で昼を18時間、夜を6時間に保つ実験です。もう一つは188系統を北緯55度の自然光のもとで、5月から育てる実験でした。穂が現れる「出穂」までの日数に加え、草丈や種子の重さなどを記録し、実験は芽生えから150日で終了しました。
著者らが報告した結果には、由来する地域による違いがありました。東アジアの季節風の影響を受ける地域に由来する多くの系統は、長い昼のもとでは穂を出さないか、出穂までに長い時間を要しました。一方、中央アジア、シベリア、ヨーロッパに由来する多くの系統は早く穂を出し、種子を形成しました。
自然光での実験では、穂を出した系統の出穂時期は芽生えから53〜112日でした。最も早く穂を出した系統には、ポーランド、ウクライナ、シベリア、ボルガ地域に由来するものが含まれました。また、早く穂を出すグループは、遅いグループよりも種子の平均重量が大きいと報告されました。
栽培の広がりを支えた性質の変化
著者らは、こうした地理的な違いを、キビの西方・北方への拡散に伴い、昼の長さへの反応が弱い系統が選ばれてきたことを示唆する結果と解釈しています。長い夏の日のもとでも早く穂を出せれば、短い生育期間のうちに種子を実らせやすくなるためです。
今回の実験は、各地に由来する現在の系統の性質を比較し、考古学的に知られるキビの広がりを説明する手がかりを示したものです。研究からは、作物の拡散を支えたのは種子の移動だけでなく、移動先の季節に合う性質の変化でもあったことが伝わります。
著者:Giedrė Motuzaitė Matuzevičiūtė(Faculty of History, Department of Archaeology Vilnius University Vilnius Lithuania)、Michael Kempf(Department of Geography University of Cambridge Cambridge UK)、Margaux L. C. Depaermentier(Faculty of History, Department of Archaeology Vilnius University Vilnius Lithuania)、Harriet V. Hunt(Department of Trait Diversity and Function Royal Botanic Gardens Kew Richmond UK)、Kristina Jaškūnė(Faculty of History, Department of Archaeology Vilnius University Vilnius Lithuania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giedrė Motuzaitė Matuzevičiūtė, Michael Kempf, Margaux L. C. Depaermentier, et al. Evolution of photoperiod insensitivity drove the westward expansion of broomcorn millet. Plants People Planet 2026-09-22. DOI: 10.1002/ppp3.70275. 原著ライセンス:CC BY.