この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肉の品質を左右する要因のひとつに、筋肉を構成する「筋線維のタイプ」があります。筋線維には、瞬発的な動きに使われ主に糖を分解してエネルギーを得る速筋(解糖型)と、持続的な動きに使われ酸素を使ってエネルギーを得る遅筋(酸化型)があり、この違いが肉質を決める重要な要素だと考えられてきました。

一方で、羊肉において速筋と遅筋のあいだで「風味前駆体」——加熱などを経て香りや味の成分へと変化する、もとになる物質——がどのように違い、その背景にどのような分子のしくみがあるのかは、まだよく分かっていませんでした。研究チームはこの点を明らかにすることを目的としました。

何をどう調べたか

対象としたのは、トルファン黒羊の二つの筋肉です。ひとつは解糖型にあたる中殿筋(GM)、もうひとつは酸化型にあたる半腱様筋(ST)で、筋線維タイプが大きく異なる代表的な骨格筋として選ばれました。

研究チームは、アミノ酸と脂肪酸の測定に加えて、脂質を網羅的に調べるリピドミクスと、タンパク質を網羅的に調べるプロテオミクスを組み合わせ、二つの筋肉のあいだにある分子レベルの違いを体系的に比較しました。

報告された主な結果

味に関わるアミノ酸では、傾向がはっきり分かれたと報告されています。酸化型のST(半腱様筋)では、うま味に関わるグルタミン酸とアスパラギン酸が解糖型のGMより有意に高く、羊肉らしい風味に寄与するとされる脂肪酸のゴンドイン酸(C20:1n-9)も高い値を示しました。逆にGM(中殿筋)では、甘味を感じさせるアミノ酸であるアラニンとプロリンの含有量が高くなっていました。

網羅的な解析では、二つの筋肉のあいだで量に差のある脂質が389種類、発現量に差のあるタンパク質が480種類見いだされました。これらを統合して解析したところ、差のあった分子は主に、細胞膜をつくる脂質に関わるグリセロリン脂質代謝と、脂肪の分解(脂肪分解)を調節する経路に集中していました。研究チームは、これらが風味前駆体の蓄積を左右する主要な代謝ネットワークだとしています。

さらに、有力な候補指標(マーカー)として、脂質ではホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、カルジオリピン(CL)、脂肪酸のC20:1n-9、タンパク質ではヘキソキナーゼ2(HK2)、ピルビン酸キナーゼM(PKM)、ミオシン重鎖7(MYH7)およびミオシン重鎖2(MYH2)が挙げられています。

この研究が示す意味

同じ羊の体でも、部位によって味のもとになる物質の顔ぶれは異なる——うま味寄りの遅筋と、甘味寄りの速筋という対比を、この研究は分子のレベルで示しました。

研究チームは、これらのデータが、筋線維タイプが羊肉の風味品質に影響を与える分子メカニズムについて新たな知見をもたらし、遺伝的選抜や栄養管理を通じて羊肉の風味を改善するための分子標的の候補を提供するものだと述べています。

著者:Yanni MA(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Na Li(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Jiemila Maimaitijiang(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Ma Qian(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Shijie Bi(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yana Liu(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yong Chen(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Batuer Abulikemu(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yanni MA, Na Li, Jiemila Maimaitijiang, et al. Analysis of Differences in Flavor Precursors Between Fast and Slow Muscles of Turpan Black Sheep Based on Lipidomics and Proteomics. Foods 2026-08-26. DOI: 10.3390/foods15172994. 原著ライセンス:CC BY.