この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
大腸がんは世界で多くみられるがんの一つです。論文によれば、食生活や生活習慣が急速に変化している国々を中心に、その負担は増え続けています。これまでの研究では、果物、野菜、豆類、全粒穀物、ナッツなど植物由来の食品を多くとる食事パターンほど、大腸がんになりにくい傾向が報告されてきました。こうした食品には、ポリフェノールやカロテノイドなど植物由来の成分が多く含まれており、これらは「ファイトケミカル」と総称されます。
研究チームが注目したのは「ファイトケミカル指数(PI)」です。これは、1日の総摂取エネルギーのうち、ファイトケミカルを多く含む食品から得たエネルギーが何%を占めるかを示す簡便な指標です。植物性食品全体ではなく、ファイトケミカルが豊富とされる食品に限って計算する点が特徴です。著者らによると、PIと大腸がんとの関係を調べた研究はまだ少なく、結果も一貫していません。また、食事の調査と血液中のさまざまな指標の測定を同時に行い、両者をあわせて検討した研究はほとんどありませんでした。そこで本研究では、PIと大腸がんとの関連を調べました。あわせて、腸のバリア機能、炎症、酸化ストレス、代謝などを反映する血液中の指標(バイオマーカー)とPIとの関係も調べています。
何をどのように調べたか
研究は2023年1月から2024年12月にかけて、中国の2つの病院で行われました。新たに大腸がんと診断され、まだ治療を受けていない患者490人と、がんのない対照群490人を比較しています。対照群は、健康診断を受けた人や、がん・消化器疾患以外の理由で外来を受診した人から選ばれました。年齢と性別の分布は患者群とそろうように集められています。このように、病気の人とそうでない人の過去の生活習慣などを比べる方法を「症例対照研究」と呼びます。
食事については、訓練を受けた栄養士が面接を行い、食物摂取頻度調査票を用いて過去12カ月の普段の食生活を尋ねました。PIの計算では、果物、野菜、豆類、全粒穀物、ナッツ、種実類、大豆製品、オリーブ、オリーブオイル、お茶を「ファイトケミカルが豊富な食品」として扱いました。ジャガイモや精製された穀物は、エネルギー源にはなってもファイトケミカルの密度が比較的低いとして含めていません。
血液検査は一晩絶食したあとに行い、患者についてはがん治療を始める前に採血しました。測定した指標は多岐にわたります。たとえば、腸の壁から物質が漏れやすくなっている状態を反映するとされるゾヌリン、細菌由来の成分であるリポ多糖(LPS)、炎症の程度を示すCRPやインターロイキン6などです。ほかに、体の酸化によるダメージを示す指標、抗酸化力の指標、インスリンの効きにくさを示す指標も含まれます。
PIと大腸がんとの関連の分析では、人口学的な要因、生活習慣、臨床的な要因を統計的に調整しました。患者群の中でPIと血液指標との関係をみる分析では、年齢、性別、BMI、総摂取エネルギーを調整しています。
主な結果
患者群は対照群に比べて、食物繊維の摂取量が少なく、PIも低い傾向にありました。結果は「オッズ比」という指標で示されています。オッズ比は症例対照研究で関連の強さを表す指標で、1より小さい場合、その要因が高い人ほど大腸がん患者である見込みが低い、つまり逆向きの関連があることを意味します。ほかの要因を調整した分析では、PIが10ポイント高いごとのオッズ比は0.573でした。
参加者をPIの高さで3つのグループに分けた分析も行われました。最も高いグループのオッズ比は、最も低いグループと比べて0.480でした。さらに、PIが高いグループほどオッズ比が段階的に低くなる傾向も確認されました。
血液の指標については、PIが高いグループほど、腸のバリア機能の低下を示すとされる指標、炎症の指標、酸化ストレスの指標、インスリン抵抗性に関わる指標が低い傾向にありました。反対に、抗酸化力の指標、栄養状態の指標、握力は高い傾向がみられました。こうした傾向は患者群と対照群の両方で認められ、対照群での関連の大きさは全体に小さめでした。
さらに著者らは「媒介分析」という手法で探索的な検討を行いました。PIと大腸がんとの関連のうち、どの程度がこれらの血液指標を介した経路と統計的に整合するかを調べるものです。その結果、腸のバリア、炎症、酸化ストレス、代謝に関わる指標で、統計的な間接的関連がみられたと報告しています。ただし、著者ら自身が強調しているように、血液は診断後に採取されています。そのため、この分析は原因と結果の順序を示すものではなく、仮説を立てるための手がかりにとどまります。
この研究が示すこと
この研究では、ファイトケミカルを多く含む食品からとるエネルギーの割合が高いことが、大腸がんと逆向きに関連していることが示されました。研究チームはこの関連を、腸のバリア機能や炎症、酸化ストレス、代謝を反映する多数の血液指標とあわせて検討しています。食事の調査結果と血液中の客観的な指標が同じ方向の傾向を示した点を、著者らは研究の特徴として挙げています。
一方で、これは病院を受診した人を対象とした症例対照研究です。示されたのはあくまで関連であり、食事が大腸がんを防ぐという因果関係を証明したものではありません。また、多数の指標を調べる際に、偶然による誤った陽性結果を抑えるための統計的補正は行っていません。そのため、個々の血液指標に関する結果は慎重に受け止める必要があると著者らは述べています。この研究は、ファイトケミカルを多く含む食品を中心とした食事と大腸がんとの関係を、体内の複数の仕組みと結びつけて考えるための手がかりを示したといえます。
著者:Juan Wu(Department of Radiation Oncology, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)、Yubao Song(Department of Gastrointestinal Surgery, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)、Meiyan Gao(Department of General Internal Medicine, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)、Junwu Duan(Department of Gastrointestinal Surgery, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)、Xuanxuan Ma(Department of Gastroenterology, Nanbu People's Hospital)、Dan Xue(Department of General Internal Medicine, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)、Chengyan Zhang(Department of Gastroenterology, Shanxi Province Cancer Hospital / Shanxi Hospital Affiliated to Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences / Cancer Hospital Affiliated to Shanxi Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juan Wu, Yubao Song, Meiyan Gao, et al. Dietary phytochemical index and biomarker profiles are associated with colorectal cancer odds: integrating dietary intake with blood biomarkers. Frontiers in Nutrition 2026-09-15. DOI: 10.3389/fnut.2026.1907770. 原著ライセンス:CC BY.