この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Racial and Ethnic Health Disparities

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ブラジルには、奴隷制の時代に囚われの身から逃れたアフリカ系の人々が築いた集落「キロンボ」に由来する共同体があり、現在も独自の歴史や文化、土地とのつながりを保っています。著者らによれば、こうした共同体は土地の剥奪や構造的な人種差別などを歴史的に経験してきました。その結果、教育や医療、公共サービスを利用しにくい状況が続き、食料不安(十分な食べ物を安定して得られない状態)も一般の人々より多くみられます。

一方で、成人の肥満や代謝の病気も報告されています。著者らは、キロンボ共同体の食事に、工業的に加工された食品(超加工食品)が入り込みつつあることを指摘しています。これは健康面だけでなく、地域の食文化を守るうえでも懸念される変化です。そこで研究チームは、伝統的な食文化を尊重しながら健康的な食事を後押しする地域ぐるみの食・栄養教育を実施しました。そして、その効果を数値データと住民の声の両面から評価することを目指しました。

どのように調べたか

研究の舞台はブラジル南部リオグランデ・ド・スル州の農村部です。過去の調査で食料・栄養の不安と過体重が多かった4つのキロンボ共同体が選ばれました。このうちカングス近郊とペロタス近郊の2共同体で教育活動を行い、残りの2共同体は比較対照としました。どちらの共同体が活動を受けるかは無作為に決めたものではありません。各世帯の世帯主178人に、活動の前と後に聞き取り調査を行いました。

教育活動は2015年4月から7月にかけて、隔週の土曜日に約2時間のワークショップとして計6回開かれました。テーマは、キロンボとしての文化的アイデンティティ、加工食品と健康、天然の調味料を使った減塩・減糖・減脂肪の料理、伝統食の見直し、文化遺産としての食、そして食料支援制度の利用です。栄養士が進行役を務めました。一方的に指導するのではなく、話し合いや調理実習、試食を通じて参加者自身が考えることを重視しました。参加は自由で、世帯主以外の住民も加わりました。

食事の内容は「24時間思い出し法」で調べました。これは前日に食べたものを詳しく聞き取る方法です。分析では、砂糖、清涼飲料・人工ジュース、果物、野菜、天然の果汁を主な指標としました。あわせて、豆やトウモロコシ料理、サツマイモ、カボチャなど住民が伝統食と考える食品が、摂取エネルギーに占める割合も調べました。さらに活動を受けた2共同体では、活動の前後にフォーカスグループ(少人数での座談会形式の聞き取り)を行い、住民の受け止め方や暮らしの変化を記録しました。

主な結果

活動後の調査には157人が応じました。研究チームの報告によると、活動後には、活動を受けた共同体のほうが対照の共同体より、食べた食品に占める野菜の割合が高くなりました。砂糖の摂取量も、活動を受けた共同体のほうが有意に少なくなりました。果物の摂取量には目立った変化がありませんでした。天然の果汁は両方のグループで増えましたが、統計的に有意だったのは対照グループだけでした。伝統食が摂取エネルギーに占める割合は、活動を受けた共同体で増えたものの、統計的に意味のある差には至りませんでした。

座談会では、数値だけでは捉えにくい変化が語られました。住民は、清涼飲料を飲む量を減らし、庭のオレンジなどで果汁を作るようになったこと、市販のクッキーに含まれる塩・砂糖・脂肪の量を知って買い物の前に考えるようになったことを挙げました。また、庭でハーブなどの調味料を育てて使うようになったことも報告されました。かつて食べなくなっていたカボチャ料理など伝統的な料理や手作りの調理が見直され、自家栽培や家畜の飼育が増えたという声もありました。直接は測定していないものの、食費が減った、教わったレシピで作った軽食を売って収入を得ている、といった経済面の変化も住民から語られました。

この研究が示すこと

著者らは、この教育活動によって食事の質に控えめながら意味のある改善がみられたと述べています。同時に、結果は慎重に解釈すべきだとも強調しています。その理由として、活動前から対照グループで清涼飲料の摂取が多かったこと、数値の調査は活動終了から約3か月後と短期間だったこと、調査対象の世帯主が必ずしもワークショップに参加していたわけではないことを挙げています。そのうえで、短期の教育だけで根づいた食習慣を大きく変えるのは難しい可能性があるとしています。

伝統食については、人種差別の歴史から「貧しさの象徴」として恥ずかしく感じられてきた背景があることを、著者らは指摘しています。その受け止め方が変わるには時間がかかると考えられます。それでも約2年後の座談会では、伝統料理の復活や自分たちで食べ物を作ることへの評価の高まりが語られていました。この研究は、地域の文化を尊重した食教育の取り組みを評価するには、数値の変化だけでなく、住民自身の気づきや選ぶ力といった側面も合わせて見ることが大切だと示しています。

著者:Sílvia Pauli(Postgraduate Studies Program in Epidemiology, School of Medicine, Federal University of Rio Grande do Sul, 2400 Ramiro Barcelos St., 2nd floor, 90035003, Porto Alegre, Brazil)、Fernanda Souza de Bairros(²Postgraduate Studies Program in Collective Health, Federal University of Rio Grande do Sul, Porto Alegre, Brazil)、Marilda Borges Neutzling(Postgraduate Studies Program in Epidemiology, School of Medicine, Federal University of Rio Grande do Sul, 2400 Ramiro Barcelos St., 2nd floor, 90035003, Porto Alegre, Brazil)、Daniela Riva Knauth(Postgraduate Studies Program in Epidemiology, School of Medicine, Federal University of Rio Grande do Sul, 2400 Ramiro Barcelos St., 2nd floor, 90035003, Porto Alegre, Brazil)、Luciana Neves Nunes(Department of Statistics, Federal University of Rio Grande do Sul, Porto Alegre, Brazil)、Francine Silva dos Santos(Department of Nutrition, Postgraduate Studies Program in Nutritional Sciences at the Federal University of Health Sciences, Porto Alegre, Rio Grande do Sul, Brazil)、Mariane da Silva Dias(Postgraduate Studies Program in Food, Nutrition and Health, School of Medicine, Federal University of Rio Grande do Sul, Porto Alegre, Brazil)、Michele Drehmer(Postgraduate Studies Program in Epidemiology, School of Medicine, Federal University of Rio Grande do Sul, 2400 Ramiro Barcelos St., 2nd floor, 90035003, Porto Alegre, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sílvia Pauli, Fernanda Souza de Bairros, Marilda Borges Neutzling, et al. Evaluation of a Community Intervention for Food and Nutritional Education in Quilombola Communities of Rio Grande do Sul, Brazil: A Community Assessment with Quanti-Quali Approach. Journal of Racial and Ethnic Health Disparities 2026-10-09. DOI: 10.1007/s40615-026-03226-1. 原著ライセンス:CC BY.