著者の所属・活動拠点の国は、スペインです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:一人で食べることは食生活をどう変えるのか

食事は栄養をとるだけでなく、人と食卓を囲む社会的・文化的な営みでもあります。地中海地域では「共に食べること」が地域の結びつきの中心とされ、地中海食はユネスコの無形文化遺産にも登録されています。一方で、高齢化と単身世帯の増加により、一人で食事をとる高齢者は増えています。

スペインの研究チームは、望まない孤独が高齢者の食品選び、買い物、料理の習慣にどう影響するかを詳しく探りました。対象地域は、65歳以上が人口の26.2%を占め、この年代の18%以上が一人暮らしをしているバルセロナ市です。著者らは、本人が自分の食生活をどう感じているかを、地中海食をどの程度実践しているかという客観的な指標や、自宅の食環境と照らし合わせることも目指しました。

調べた方法:聞き取り、質問票、台所の写真

研究チームは、バルセロナ市内で一人暮らしをし、自分で買い物と調理をしている65歳以上の12人(女性7人、男性5人、66〜87歳)を対象にしました。一人暮らしの経緯は、7か月前に配偶者を亡くした人から、離婚した人、何十年も独身の人までさまざまでした。

調査は2025年3月から9月にかけて参加者の自宅で行われました。まず、地中海食の実践度を0〜14点で測る質問票(MEDAS)に答えてもらいました。続いて、平均約55分の聞き取りで、買い物、料理、食事の時間や習慣、食べ物にまつわる感情や思い出、孤独が暮らしに与える影響を尋ねました。

さらに、冷蔵庫、食品の保管棚、台所全体を撮影しました。研究チームが用意した評価法で、野菜や果物、たんぱく源、オリーブ油の有無などを点数化し、家庭の食環境が地中海食を後押しするものかどうかを判定しています。聞き取りの内容と数値を一人ひとりについて突き合わせる「混合研究法」と呼ばれる手法をとりました。

主な結果:簡素化される料理、失われる「みんなで食べるもの」

聞き取りからは、生活のさまざまな場面での変化が報告されました。買い物はほぼ毎日の日課になっており、外出して人と言葉を交わす手段として意識的に続けられていました。ネット注文や宅配は、体を動かし続けたい、生鮮品を自分の目で選びたいという理由から、全員が利用していませんでした。一方、年金が少ない人は、生鮮品、特に魚を買いにくいと語っています。

料理では、自分のためだけに作る意欲の低下から、手間のかかる伝統料理を避け、出来合いの料理や、まとめて作って数日食べ続けるといった簡素化が広く見られました。傷むのが心配で果物を買い控えることも、家に果物が少なくなる一因でした。この変化には男女差もあり、長年家族の好みに合わせて料理してきた女性にとっては負担からの解放という面があり、男性にとっては晩年になって料理を一から覚える過程になっていました。

食事の形も変わりました。一皿だけを10〜15分ほどで済ませる食事が中心になり、夕食を抜いたり、ハーブティーやヨーグルトだけで済ませたりする例がありました。家の静けさを和らげるため、テレビやラジオをつけて食べる人もいました。また、パエリアや魚介類、ワインのような「人と分かち合う食べ物」は、一人では食べる気にならなかったり寂しさを感じたりして、遠ざけられていました。

数値の面では、地中海食の実践度は平均14点中6.75点で、中程度から低い水準でした。全員が主な調理油としてオリーブ油を使っていた一方、1日2皿の野菜を食べていたのは12人中2人、1日3個以上の果物を食べていたのは25%にとどまりました。台所の写真による食環境の評価は平均16点中5.83点でした。

この研究が示すこと:食卓を共にする相手の大切さ

著者らは、健康的な食品が家にそろっていても、一人で食べることや料理への意欲の低下によって、それが実際に食べられるとは限らないという「ずれ」を指摘しています。地中海食を後押しする環境と判定された参加者の中でも、実践度が高かったのは、孫娘たちのために毎日料理をしていた女性1人だけでした。逆に、実践度が最も低く食環境もリスクありと判定された例は男性に見られ、料理への強い抵抗や配偶者を亡くした後の深い無気力が語られていました。

この研究は、バルセロナという都市に暮らす12人を対象とした小規模な調査で、著者ら自身も、結果をほかの地域や農村部にそのまま当てはめられるわけではないと述べています。それでも、地中海食は「何を食べるか」だけでなく「誰とどう食べるか」に支えられた食文化であり、一人で食べる暮らしがその継続を揺るがしうることを、当事者の言葉と数値の両面から描き出しています。著者らは、高齢者の社会的孤立を和らげる公衆衛生上の取り組みが必要だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:F. Xavier Medina(oodLab Research Group, Faculty of Health Sciences, Open University of Catalonia (UOC), Barcelona, Spain)、Laura Esquius(oodLab Research Group, Faculty of Health Sciences, Open University of Catalonia (UOC), Barcelona, Spain)、Alicia Aguilar-Martínez(oodLab Research Group, Faculty of Health Sciences, Open University of Catalonia (UOC), Barcelona, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):F. Xavier Medina, Laura Esquius, Alicia Aguilar-Martínez. Unwanted loneliness, food practices, and Mediterranean diet adherence among older adults in Barcelona city (Spain). Frontiers in Nutrition 2026-10-08. DOI: 10.3389/fnut.2026.1947655. 原著ライセンス:CC BY.