著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Food systems
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ
研究の目的:少ない水で植物タンパク質を加工する
動物性タンパク質の代わりとして、植物由来のタンパク質への関心が高まっています。なかでも豆類は、タンパク質を取り出して濃縮した素材が食品原料として注目されています。こうした素材の風味や、食品の中での振る舞い(溶けやすさ、水や油の抱え込み方、泡立ちなど)を変える方法として、タンパク質分解酵素でタンパク質を細かく切る「酵素加水分解」が広く使われています。
ただし一般的な酵素加水分解では、原料1に対して水を50〜200倍も使います。そのため多くの装置が必要になり、排水も多く出ます。さらに最終製品を粉末にするには、溶液から取り出して乾燥させなければなりません。乾燥の際にタンパク質が酸化し、苦味や焦げたようなにおいが生じることもあると、著者らは指摘しています。
そこで研究チームは「メカノ酵素加水分解」に着目しました。これは、ローラー式の粉砕機で原料を機械的に処理しながら酵素を全体に行き渡らせ、ごく少量の水で加水分解を進める方法です。固体と液体の比はおよそ7対1で、混合物は液体ではなく粉末の状態です。研究の目的は、この方法を植物タンパク質原料に使うことの根拠を示すことでした。あわせて、加工の過程で食品素材としての性質(論文では「機能的・技術的特性」と呼ばれます)とタンパク質の分子の大きさの分布がどう変わるかを調べ、両者の関係を明らかにしようとしました。
何を調べたか:粉砕の度合いと酵素の量を変えて比較
研究対象には、デンプンや脂肪をできるだけ取り除いたエンドウ豆タンパク質の分離物(アイソレート)が使われました。まず未処理の試料について、栄養成分、アミノ酸組成、安全性を確認しました。次に、粉砕を1回または2回行った試料を用意しました。さらに、水分を約13%に調整したうえで、酵素製剤を原料重量の0%、0.075%、0.25%、2%の割合で加えた試料も作りました。使われた酵素製剤は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のタンパク質分解酵素を主成分とする市販品です。これらの試料を、60℃で4時間かけて加水分解させた後、加熱して酵素の働きを止めました。
各試料について、冷水と熱水への溶けやすさ、水や油を保持する力、泡立ちやすさ、乳化(水と油を混ぜ合わせる)の性質などを測定しました。また、電気泳動という手法でタンパク質を分子の大きさごとに分け、分子量の分布を調べました。さらに、栄養の吸収を妨げるとされる「抗栄養因子」として、ミネラルと結びつきやすいフィチン酸と、消化酵素トリプシンの働きを妨げるトリプシン阻害物質の量も評価しました。
主な結果:抗栄養因子の減少と、性質と分子構造の対応関係
未処理のエンドウ豆タンパク質は、有害元素や微生物に関する安全基準を満たしていました。化学組成もこの種の製品として一般的なものでした。アミノ酸のバランスを見ると、硫黄を含むアミノ酸(メチオニンとシステイン)とトリプトファンが相対的に少ないことがわかりました。これはエンドウ豆タンパク質について知られている特徴と一致します。
粉砕だけの効果を調べると、粒子の大きさが約52マイクロメートルから約20マイクロメートルまで小さくなりました。それにともない、冷水への溶けやすさは56.0%から78.7%に、泡立ちやすさは28.9%から48.9%に、それぞれ統計的に意味のある増加を示しました。一方、熱水への溶けやすさや水を保持する力には有意な変化が見られませんでした。油を保持する力は1グラムあたり1.86グラムから1.54グラムへと、約17%低下しました。
酵素を加えた加水分解では、大きなタンパク質分子が分解され、中くらいから小さな分子量のタンパク質やペプチド(アミノ酸が短くつながったもの)、遊離アミノ酸が新たに生じ、分子量の分布が変化しました。著者らは、酵素の添加量を変えた場合も含めて、この方法が有効であったと報告しています。抗栄養因子については、フィチン酸が8.9〜33.3%、トリプシン阻害物質が1.3〜10.5%減少しました。
研究チームはさらに、水を保持する力、冷水・熱水への溶けやすさ、溶け出したタンパク質の量といった性質と、タンパク質のペプチド構造を表す指標とのあいだに相関関係があることを見いだしました。これらの性質どうしにも相関関係が認められています。
研究の意味
この研究は、大量の水を使わない粉末状態での酵素加水分解によって、エンドウ豆タンパク質の分子の大きさの分布や食品素材としての性質が変わることを示しました。また、その変化に一定の対応関係があることも示しています。著者らは、これらの結果をもとにすれば、目標とする分子量範囲の成分が多くなるように加工条件を設計できると述べています。さらに、食品に特定の性質を持たせるためにどの豆類原料を選ぶべきか、その根拠づけにも役立つとしています。
原著論文の著者・所属:L. N. Rozhdestvenskaya(Novosibirsk Scientific Research Institute of Hygiene of the Federal Service for Supervision of Consumer Rights Protection and Human Well-Being; Novosibirsk State Technical University)、I. O. Lomovkiy(Institute of Solid State Chemistry and Mechanochemistry of the Siberian Branch of the Russian Academy of Sciences)、O. V. Chugunova(Ural State University of Economics)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):L. N. Rozhdestvenskaya, I. O. Lomovkiy, O. V. Chugunova. Study of the dynamics of functional properties and molecular structure of plant protein under mechano-enzymatic hydrolysis. Food systems 2026-10-22. DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-3-505-517. 原著ライセンス:CC BY.