著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:市場に出回る2種類の「亳菊」の違いを探る
「亳菊(ボージュ)」は、中国安徽省亳州を産地とする菊の花(キク科の頭花を乾燥させたもの)で、薬用にも、お茶のように淹れて飲む食用にも使われてきました。市場では主に「大亳菊(DBJ)」と「小亳菊(XBJ)」という2つの規格が流通しており、それぞれ異なる栽培品種に由来します。
著者らによると、両者は見た目や風味が異なり、それが飲み手の好みや価格に影響します。しかし、食品として味わう観点から、香りや味の違いを体系的に調べた研究はほとんどありませんでした。そこで研究チームは、市販のDBJとXBJの風味の違いを、複数の分析手法を組み合わせて比較しました。
この研究は、管理された条件で品種そのものの違いを取り出すことを目指していません。消費者が実際に手にする市販品どうしの違いを評価しています。
調べ方:においと味を機械で測り、香り成分を分離する
試料には、2025年12月に亳州の薬材市場で別々の業者から購入した、DBJとXBJの各3ロットを使いました。乾燥方法などの加工履歴は業者から十分な情報が得られませんでした。そのため著者らは、観察された違いには品種だけでなく、業者ごとの加工や保存条件などが影響している可能性があると断っています。
分析には3つの手法を使いました。1つ目の「電子鼻」は、においの成分に反応する10種類のセンサーで香り全体の傾向を捉える装置です。2つ目の「電子舌」は、花の粉末を水で抽出した液を味覚センサーで測り、酸味、うま味、苦味の後味などの傾向を数値化します。3つ目のGC-IMS(ガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析)は、揮発する香り成分を一つひとつ分離し、どんな成分がどれだけ含まれるかを調べる手法です。
得られたデータは、多数の測定値をまとめて試料どうしの近さを図示する主成分分析(PCA)と、2つのグループを分ける要因を探す判別分析(OPLS-DA)で解析しました。判別モデルについては、偶然の当てはまりすぎがないかも検証しています。
主な結果:香りでは明確に分かれ、テルペン類が鍵に
電子鼻の測定では、DBJとXBJは香りのパターンによってはっきり2つのグループに分かれました。2つを分ける要因として特に大きかったのは、芳香族化合物や有機硫黄化合物に反応するセンサーでした。
電子舌の測定では、甘味や苦味に関わる反応に両者で有意な差はなく、重なる部分も多くみられました。一方、DBJはうま味、コク、苦味の後味の反応が有意に強く出ました。塩味については、XBJが「味として感じられる基準」を下回っていました。これに対し、DBJはわずかに塩味がある水準でした。著者らは、塩味、うま味、苦味の後味が両者の味の違いを特徴づけると報告しています。
GC-IMSでは125の信号が検出され、そのうち66の化合物がアルデヒド類、アルコール類、エステル類、ケトン類、フラン類などとして推定されました。XBJでは、α-テルピネン、γ-テルピネン、樟脳、α-テルピネオール、リナロールといった、植物の香りによく含まれるテルペン類が多い傾向がありました。DBJでは3-(メチルチオ)プロパナールなどが多めでした。統計解析の結果、両者の区別に大きく寄与する成分として28の化合物が選ばれ、その多くがテルペン類でした。著者らは、これらが香りの違いを支える主な目印の候補だとしています。なお、XBJの中でもロットによってある程度のばらつきが見られました。
研究が示すこと
この研究は、市販の2種類の亳菊が、とくに香りの面で機械による測定ではっきり区別できることを示しました。違いの背景には、テルペン類を中心とする香り成分の組成の差があると報告しています。
著者らは、においと味のセンサーに成分分析を組み合わせるこの方法を、菊花を使った食品の品質の格付けや規格づくりに役立つ枠組みとして提案しています。ただし、比較したのは各3ロットの市販品であり、違いが品種によるものか、加工や保存によるものかは切り分けられていません。
原著論文の著者・所属:Xiao-su Xiang(College of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine)、Yun-yun Sun(College of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine)、Jun-shan Gao(School of Life Sciences, Anhui Agricultural University)、Da-hui Li(School of Life Sciences, Anhui Agricultural University)、Qing-shan Yang(Anhui Province Key Laboratory of Research & Development of Chinese Medicine; College of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine; Institute of Conservation and Development of Traditional Chinese Medicine Resources, Anhui Academy of Chinese Medicine; Synergetic Innovation Center of Anhui Authentic Chinese Medicine Quality Improvement)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiao-su Xiang, Yun-yun Sun, Jun-shan Gao, et al. Quality evaluation of commercial ‘Boju’ (Chrysanthemum morifolium Ramat.) using integrated electronic nose, electronic tongue, and GC-IMS analysis. Frontiers in Nutrition 2026-10-23. DOI: 10.3389/fnut.2026.1945038. 原著ライセンス:CC BY.