この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

スーパーの棚に並ぶ加工食品のパッケージには、健康度を一目で伝えるためのマークやラベルが付いていることがあります。こうした「栄養成分の前面表示(Front-of-Package Labeling、FoPL)」は、健康的な食選択を後押しする公衆衛生の取り組みとして各国で導入が進んでいます。しかし、星の数や点数で全体の健康度をまとめて示す「サマリー型」表示と、糖分・脂肪・塩分など個別の栄養素を色分けして示す「栄養素別型」表示とでは、消費者の受け止め方や選択への影響がどう異なるのか、また、その背後でどのような『考え方(認知プロセス)』が働いているのかは、これまではっきりしていませんでした。今回紹介する研究は、この点を2つの実験を通じて調べたものです。

研究でわかったこと

研究チームはまず「研究1」として、237人の参加者を対象にオンライン実験を実施しました。ここでは、表示の種類(サマリー型 vs. 栄養素別型)と、色分けの有無(あり vs. なし)を組み合わせた2×2のデザインで比較が行われました。健康食品への関心度や栄養知識の理解力(機能的健康リテラシー)を統計的に調整した上で分析した結果、表示の種類と色分けの間には、健康度の認知(その食品をどれだけ健康的だと感じるか)の変化に対して統計的に意味のある交互作用が見られました。具体的には、栄養素別型の表示に色分けを加えた場合、色分けなしの栄養素別型表示よりも、食品をより健康的だと感じる度合いが高くなる傾向が示されました。一方で、実際に「どの食品を選ぶか」という食品選択そのものの変化については、表示の種類や色分けによる統計的に意味のある違いは確認されませんでした。

続く「研究2」では、対象を複数の低栄養食品カテゴリーに広げ、138人の参加者を、(1)健康の星評価のようなサマリー型表示、(2)信号機の色分けを模した栄養素別型表示、(3)前面表示なしの対照群、という3つの条件に分けて比較しました。統計的な分析(PLS-SEM)により、栄養理解の正確さ・食品の健康度に対する認知・低栄養食品を購入したいという意図の間の関連が調べられています。その結果、サマリー型表示の条件では、食品の健康度の認知を介して、低栄養食品を購入したいという意図が低くなるという間接的な関連が示されました。一方、色分けされた栄養素別型表示の条件では、栄養理解の正確さと食品の健康度認知という2段階を経由した間接的な関連が示されました。つまり、同じように「健康的な選択を後押しする」表示であっても、サマリー型は感覚的な健康イメージに、色分けされた栄養素別型は栄養情報の正確な理解に、それぞれ異なる形で結びついている可能性があるとされています。なお、これら2つの統計モデルは、低栄養食品への購入意図のばらつきの多くを説明するものであったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで実験室的な条件下でのオンライン実験に基づくものであり、参加者の人数も研究1で237人、研究2で138人と限られています。実際の店舗での購買行動や、長期的な食習慣への影響を直接検証したものではない点には留意が必要です。また、研究1では健康度の「認知」には表示デザインの違いが影響した一方、実際の「食品選択」そのものには統計的に意味のある違いが見られなかったことも報告されており、認知の変化がそのまま行動の変化に直結するとは限らない可能性が示唆されています。前面表示のデザインが人の考え方や購入意図とどう結びつくかを探る一つの研究として捉えるのが妥当であり、これだけで特定の表示方式が優れている、あるいは健康的な食生活を実現できると結論づけるものではありません。

まとめ

今回の研究では、栄養成分の前面表示について、サマリー型と栄養素別型という異なるデザインが、消費者の健康認知や低栄養食品への購入意図と、それぞれ異なる認知的な経路を通じて関連している可能性が示されました。サマリー型は食品の健康イメージを介した経路と、色分けされた栄養素別型は栄養理解の正確さを介した経路と結びついていることが示唆されています。前面表示という身近な情報が、私たちの食選びの背後でどのように働きうるかを考えるうえで、興味深い視点を提供する研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):全体像か詳細情報か:栄養成分表示(前面表示)が健康的な食品選択と認知処理に与える影響の検討(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)

著者:Yongkang Hou(School of Journalism and Communication, Tsinghua University, Beijing, China)、Aocheng Zhou(School of Journalism and Communication, Tsinghua University, Beijing, China)、Junqing Xu(Center for Japanese Studies, Shanghai Jiao Tong University, Shanghai, China)、Shaopeng Che(School of Humanities and Social Science, Chang’an University, Xi’an, China)