著者の所属・活動拠点の国は、タンザニアです。

掲載誌:AlQalam Journal of Medical and Applied Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

タンザニアの都市部や都市近郊では、水不足と食料需要の増加を背景に、下水処理場から出る処理水(排水)を野菜や果物の灌漑に使う農業が広がっています。排水には作物の生育を助ける栄養分が含まれる一方で、病原微生物や寄生虫などが含まれている可能性もあります。

世界保健機関(WHO)は、排水を農業に使う際の健康リスクを減らすため、「多重バリア」と呼ばれる考え方を勧めています。排水の処理、安全な灌漑方法、最後の灌漑から収穫までに一定の期間を空けること、衛生的な取り扱い、適切な調理など、複数の対策を重ねて安全を確保するというものです。

今回の論文は、ムワンザ、ドドマ、ダルエスサラームの3都市で、排水による灌漑から収穫、販売、調理、そして食べるまでにどれくらいの時間がかかっているのかを調べ、その公衆衛生上の意味を検討することを目的としています。

何を調べたのか

調査は2025年9月から2026年3月にかけて、地域の世帯を訪問する形で行われました。対象は、排水処理場の処理水を灌漑に使う農家と、そうした野菜や果物を買ったり食べたりする消費者で、合計400人です。

参加者には構造化された質問票に答えてもらい、灌漑の頻度や時間帯、収穫のタイミング、販売の仕方、持ち帰りにかかる時間、下ごしらえや調理の方法、食べ方などを尋ねました。つまりこの研究は、人々の実際の行動や時間の流れを回答から把握したもので、作物に付着した微生物を直接測定したものではありません。

主な結果

400人のうち147人(36.75%)が排水を灌漑に使う農家でした。論文では、排水による灌漑と曝露リスクとの間に統計的に有意な関連が報告されています(相対リスク2.14)。

灌漑は主に週2〜3回行われ、時間帯は午前6時から9時ごろが中心でした。一方、収穫は午前8時から11時30分ごろに集中しており、灌漑の後まもなく収穫が行われる様子がうかがえます。収穫の前に灌漑する人(26.25%)は、収穫の後に灌漑する人(12.25%)より多いと報告されています。

収穫後の流通も速く、農作物を売り切るまでの平均時間は約2.55時間でした。農家が畑から家まで運ぶのにかかる時間は平均15分、消費者が市場から家まで持ち帰る時間は平均約9分でした。消費者が購入するのは朝が多く(52.75%)、購入場所としては地元の市場が最も多く挙げられました。

食べ方を見ると、野菜は93%が加熱して食べられていましたが、果物は全員が生で食べていました。野菜の下ごしらえは平均約19分、果物は約14分、野菜の加熱調理は平均約13分でした。また、参加者の73.75%が、しっかり火を通すよりも「軽く加熱した」野菜を好むと答えています。

この研究が示すこと

著者は、灌漑の頻度が高く、灌漑から収穫までの間隔が短いうえ、販売や持ち帰りもごく短時間で進むため、病原体が自然に減る時間がほとんどないまま野菜や果物が食卓に届いている可能性を指摘しています。特に、加熱で病原体を減らす機会のない生の果物や、軽い加熱を好む傾向は、リスクが残る経路になりうると論じています。

論文は、排水を使った農業の安全を守るには、畑での灌漑管理から収穫後の取り扱い、市場の衛生、家庭での調理まで、「畑から食卓まで」の流れ全体を見て対策を重ねる必要があると結論づけ、排水再利用に関する安全指針の実施を強化する必要性を訴えています。

原著論文の著者・所属:Erasto Kinemelo(Department of Environmental Health Sciences, Ruaha Catholic University,P.O.Box 774, Iringa, Tanzania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Erasto Kinemelo. Elapsed Time Between Wastewater Irrigation, Harvesting, Marketing, Preparation, and Consumption of Vegetables and Fruits and Associated Public Health Risks in Selected Cities, Tanzania. AlQalam Journal of Medical and Applied Sciences 2026-10-07. DOI: 10.54361/ajmas.261013. 原著ライセンス:CC BY.