出産後の女性が経験する気分の落ち込み、いわゆる産後うつは、世界的に見ても母親の心の健康に関わる重要な課題とされています。特に授乳中の母親は、赤ちゃんの世話による睡眠不足や生活リズムの乱れ、食生活の変化など、さまざまな要因が重なりやすい時期にあります。今回紹介する研究は、パキスタン・ラホールの病院で、授乳中の女性を対象に、食事の内容や睡眠の質と産後うつの症状との関連を調べたものです。
研究チームには、Akhtar Saeed Medical and Dental College(ラホール)の栄養学科に所属する著者や、Nur International University、The University of Agriculture(スワート)、University of Home Economics(ラホール)に所属する著者が名を連ねています。
どのように調べたのか
調査は、ラホールのFarooq Group of Hospitalsで3か月間にわたって実施されました。対象となったのは18〜40歳の授乳中の母親157人で、条件に合う対象者を無作為ではなく機会的に集める『コンビニエンスサンプリング』という方法で選ばれています。参加者の平均年齢は27.69歳(標準偏差5.52)でした。
食生活については、どのような食品をどれくらいの頻度で食べているかを尋ねる『食物摂取頻度調査票(FFQ)』を使用しました。うつ症状の重さは、産後うつの評価によく用いられる『エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)』で測定し、睡眠の質は『ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)』を使って評価しています。得られたデータは統計ソフトSPSS(バージョン22)を用いて、記述統計とカイ二乗検定という手法で分析されました。
わかったこと
分析の結果、うつ症状の重さと睡眠の乱れとの間に、統計的に非常に強い関連が見られました(p<0.001)。うつ症状が重い人ほど、睡眠の問題も深刻になる傾向があったと報告されています。
食事の内容についても、うつ症状の程度との間に統計的に意味のある関連が複数見つかりました(p<0.05)。具体的には、穀物、米、野菜、果物、卵、鶏肉、肉類、豆類、ナッツ類、油、魚介類、甘い菓子類、揚げ物、清涼飲料水、加工食品、ジャンクフード、スプレッド(パンなどに塗る食品)といった、幅広い食品カテゴリーの摂取頻度がうつ症状のレベルと関連していました。一方で、牛乳の摂取についてはこの関連が統計的に有意とは言えませんでした(p=0.065)。
全体的な傾向として、うつ症状が重い参加者ほど、エネルギー密度の高い加工食品を多く摂取し、栄養価の高い食品の摂取が不規則だったり少なかったりする傾向が見られたと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、パキスタンの一つの病院で、機会的に集められた157人の授乳中の女性を対象にした横断的な調査です。横断的な調査では、ある時点での食事・睡眠・うつ症状の関連は示せても、どちらが原因でどちらが結果かという因果関係までは特定できません。そのため、『特定の食品を減らせば産後うつが改善する』といった断定はできず、あくまで食事・睡眠・気分の間に関連が見られたという段階の知見です。また、対象がパキスタンの特定地域の女性に限られているため、異なる文化圏や食生活を持つ集団に同じ傾向が当てはまるかどうかは、この研究だけでは判断できません。
なお、この研究の要旨および著者情報には、日本の研究機関や日本の食品・食習慣に関する言及は含まれていません。
まとめ
今回の調査では、授乳中の女性における産後うつの重さが、睡眠の質の悪さや、加工食品・エネルギー密度の高い食品を中心とした食生活と関連していることが示されました。著者らは、睡眠管理や食事面での工夫を産後ケアに取り入れることが、産後うつの症状緩和や母親の健康維持に役立つ可能性があるとしています。ただし、これは一つの横断的調査で得られた関連にとどまり、結論が確定したものではない点に留意して読む必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Syeda Amna Danish, Aqsa Ali, Qurat UL Ain Bokhari, et al. Exploring the Triadic Relationship: Diet, Sleep, and Postpartum Depression in Breastfeeding Women. ジャーナル・オブ・グローバル・ソーシャル・トランスフォーメーション (2026). DOI: 10.71317/jgst.2.9.2026.552. 原著ライセンス: cc-by.