年齢を重ねるにつれて記憶力や判断力が少しずつ変化していくことは、多くの人にとって身近な関心事です。認知症の根本的な治療法がまだ確立されていない中で、食生活を通じた予防に注目が集まっており、その候補の一つとして挙げられてきたのがお茶です。中国を起源とし、世界三大無アルコール飲料の一つとされるお茶には、フラボノイドやメチルキサンチン、多糖類、アミノ酸といった生理活性物質が含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など幅広い働きが指摘されてきました。今回紹介する研究は、こうしたお茶と高齢期の認知機能との関係について、これまでに発表された観察研究と介入試験(ランダム化比較試験)を横断的に整理し、現時点で何が言えて何が言えないのかを見渡した総説です。
どのように調べたのか
研究チームは、PubMedデータベースを用いて1997年から2024年までに発表された論文を検索し、65歳以上の高齢者を対象とした前向きコホート研究とランダム化比較試験に限定して情報を集めました。単回摂取だけを扱った研究は除外し、長期的なお茶の摂取が認知機能に及ぼす影響に焦点を当てています。研究デザインの異質性が大きく、サンプルサイズも総じて小さいことから、数値を統合するメタ解析ではなく、個々の研究結果を並べて比較する形で分析が行われました。
観察研究では関連が示唆される一方、介入試験では結論が出ていない
シンガポール、日本、中国など、もともとお茶を飲む習慣が根付いている地域を対象とした前向きコホート研究では、緑茶やウーロン茶の摂取が認知機能の低下しにくさと関連していたとする報告が複数まとめられています。例えば日本のOhsaki Cohortでは緑茶摂取と認知症発症リスクの低さとの関連が報告され、NILS-LSAという日本の高齢者を対象とした研究でも緑茶摂取が認知機能低下のリスクの低さと関連していたとされています。中国のデータでは、緑茶・紅茶いずれの摂取も高齢者の認知機能の良さと関連していたと報告されています。
一方で、アメリカ・フィンランド・ドイツなど、主に紅茶を飲む習慣のある地域の研究では、こうした関連がはっきりと見られない、あるいはむしろ否定的な結果が報告されています。唯一の例外として、アメリカのCardiovascular Health Studyというコホートでは、紅茶摂取が女性においてのみ認知機能低下の緩やかさと関連していたという結果が出ていますが、著者らはこの性差について生物学的な説明がまだ明確ではないと述べています。こうした東西の違いについて、著者らはお茶に含まれるカテキンの量が茶葉の種類によって異なること(緑茶に多く、ウーロン茶がこれに次ぎ、紅茶が最も少ないとされています)、また西洋では紅茶に砂糖やミルクを加える飲用習慣があり、これが有効成分の働き方に影響している可能性があることなどを挙げて考察しています。
介入試験については、今回の総説で取り上げられたのは合計5件のみで、いずれもサンプルサイズは30人から91人と小規模でした。韓国で行われた緑茶抽出物とL-テアニンを用いた試験(91人)では記憶力の改善が見られたものの統計的に有意ではなく、日本で行われたL-テアニン単独の試験(30人、4週間介入)や緑茶抽出物の試験(33人、12か月介入)でも、主要な解析では認知機能への明確な効果は確認されませんでした。一方、緑茶カテキン(GTC)を用いた日本の試験(52人)では、単回摂取後の注意機能の改善や、継続摂取による作業記憶への好ましい影響が報告されており、抹茶粉末を用いた別の日本の試験(54人)でも、地域在住の女性においては認知機能低下に対する保護的な効果が示された一方、男性では見られなかったとされています。著者らは、これら5件の試験すべてにおいて、主要な解析(intention-to-treat解析)では統計的に有意な効果は示されなかったと総括しています。
この研究を読むうえで押さえておきたいこと
この総説の著者らは、いくつかの重要な限界を挙げています。まず、これまでの介入試験はいずれも小規模で、対象者の多くがもともとお茶を飲む習慣のある集団に限られており、お茶を飲まない人を対象とした大規模な試験はまだ行われていません。また、観察研究の多くは学歴や社会経済状況、身体活動量、食事の質、喫煙や飲酒といった、認知機能に影響しうる他の要因が十分に調整されていない可能性があると指摘されています。著者らは今後の研究として、お茶を飲む習慣のなかった高齢者を対象に、緑茶・ウーロン茶・紅茶といった茶の種類や添加物(砂糖・ミルクなど)を統一した条件で、少なくとも12か月以上の期間をかけて比較する大規模なランダム化比較試験が必要だと述べています。加えて、脳内の炎症や酸化ストレス、アルツハイマー病に関連する物質(アミロイドβやリン酸化タウなど)といった生物学的指標を組み合わせること、APOE ε4遺伝子といった遺伝的な感受性の違いにも目を向けることの重要性を挙げています。
まとめ
今回の総説では、お茶の摂取と高齢期の認知機能との関連について、前向きコホート研究では緑茶を中心に一定の関連を示す報告が積み重なっている一方、ランダム化比較試験の結果はまだ乏しく、明確な結論を導くには至っていないことが整理されました。著者らは、日常的にお茶を飲むことが加齢による認知機能低下を遅らせたり認知機能を高めたりするかどうかについて、現時点では結論が出ていないとしたうえで、今後は大規模な介入試験と生物学的指標を組み合わせた研究の蓄積が必要だと述べています。一つの総説として、今後の研究の方向性を示すものであり、お茶の効果を確定づけるものではない点に留意が必要です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kaifan Zhang, Changjiang Li, Senlin Wang, et al. Tea and cognitive health in aging: Current evidence and future directions. メディシン (2026). DOI: 10.1097/md.0000000000050137. 原著ライセンス: cc-by.