この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
部位によって香りはどう違うのか
豚肉の品質は、これまで成長の速さや枝肉の特徴、基本的な栄養成分などで評価されてきました。消費者が量より質を求めるようになり、風味や食感も重視されるようになっています。香りはその中でも重要な要素です。
肉の香りは、加熱や酸化で生じる多くの揮発性成分から生まれます。ただし、量が多い成分が強く香るとは限りません。ごく微量でも人が感じやすい成分が、全体の香りを大きく左右することがあります。そこで研究チームは、実際に人の鼻で感じ取られる「におい活性成分」に注目しました。
部位ごとに筋肉の性質や脂肪の付き方、脂質の組成は異なります。先行研究でも、部位によって揮発性成分や脂質に違いがあることは示されていました。一方で、部位の香りの違いが「異なる強力なにおい成分があるため」なのか、「共通の成分の量や効き方が違うため」なのかは、はっきりしていませんでした。本研究はこの点を確かめ、におい成分、脂肪酸、官能評価の関係を調べることを目的としています。
5つの部位を多角的に分析
対象としたのは、ばら、もも、すね、ロース、肩ロースの5部位です。訓練された評価者が、肉らしい香り、脂っぽい香り、果実のような香りなど、項目ごとに香りの強さを点数化しました。
におい成分の分析では、まず脂質の多い肉から香り成分を穏やかに取り出しました。次に、成分を分離しながら人が実際に嗅いで確認し、同時に高分解能の質量分析で成分を特定しました。さらに抽出液を段階的に薄め、どこまで薄めても香りを感じ取れるかで、各成分のにおいの強さを比べました。
主な成分は濃度も測りました。そのうえで、人がにおいを感じ始める濃度(閾値)と比べた「におい活性値」を求め、香りへの寄与の目安としました。あわせて脂肪酸の組成を調べ、統計的な手法で部位間の違いや成分同士の関連を解析しています。
共通の成分と、部位ごとの違い
官能評価では、5部位とも肉らしい香りと脂っぽい香りが中心でした。ばらはこの2つの香りが特に強く、ロースは比較的弱い結果でした。ももは他の部位と異なり、ゆで卵のような香りと金属のような香りが目立ちました。
におい活性成分は合計62種類が確認され、その多くはアルデヒド類、エステル類、アルコール類でした。確認された数は、ばらが39種類で最も多く、ロースが25種類で最も少なくなりました。濃度を測定した43成分の合計は、ばらが約1万955µg/kgで最も高く、ロースが約2471µg/kgで最も低い値でした。ばらと肩ロースはどちらも合計量が多いものの、多く含まれる成分の顔ぶれは異なっていました。
著者らは、濃度とにおいの重要度が必ずしも一致しないことも示しました。たとえば2-ペンチルフランはどの部位にも多く含まれていました。一方、(Z)-4-デセナールは濃度が低いものの閾値が極めて低いため、高いにおい活性値を示しました。統計解析では、(Z)-4-デセナール、2-ペンチルフラン、ノナナール、1-オクテン-3-オール、ベンゼンアセトアルデヒド、(E,E)-2,4-デカジエナール、ヘキサナールの7成分が、部位を見分けるうえで重要な候補として挙がりました。ベンゼンアセトアルデヒドを除く多くは、脂質の酸化と関わりの深い成分です。
ただし、この7成分だけで官能評価の違いをすべて説明できるわけではありませんでした。ももで目立ったゆで卵様・金属様の香りについて、典型的な硫黄系成分は7成分に含まれていません。論文は、硫黄系成分はごく少量でも強く感じられるため、ほかの成分とともにももの香りに関わっている可能性を指摘しています。部位の区別に役立つ成分と、特定の香りを決める成分は、必ずしも同じではないということです。
脂肪酸の総量は、100gあたり約263mg(ロース)から約3084mg(ばら)まで、部位によって大きく異なりました。ばらは飽和、一価不飽和、多価不飽和のいずれの脂肪酸も最も多く含んでいました。一方、ももとすねは総量がほぼ同じでしたが、個々の脂肪酸の構成ははっきり違っていました。部位間の違いに関わる脂肪酸の候補として、18種類が挙げられています。相関解析では、脂肪酸は脂質酸化に関連するにおい成分と幅広く関連していました。これに対し、におい成分と個々の香りの項目との関連は、項目ごとに特定の成分に偏る傾向が見られました。なお著者らは、酸化の指標や前駆物質の変化を直接測定したわけではないため、これらはあくまで組成上の関連として解釈すべきだとしています。
研究が示すこと
この研究は、豚肉の部位による香りの違いを、人の感覚、におい成分、脂肪酸という3つの面から整理しました。部位間の差は、まったく異なる成分があるかどうかだけでなく、共通の成分の量やにおいの効き方の違いにも表れていました。また、脂肪酸の総量だけでは香りの違いを説明しきれないことも示されています。著者らは、これらの結果が豚肉の風味品質の評価や、部位に応じた加工・利用を考えるための基礎情報になるとしています。
著者:Mingguang Yu(Institute of Quality Standard and Testing Technology, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Ting Li(Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Wang Liran(Zhongke Yuansheng Biotechnology (Tianjin) Co., Ltd., Tianjin 300450, China)、Liang Zhuang(Institute of Agri-food Processing and Nutrition, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Yunxia Luan(Institute of Quality Standard and Testing Technology, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mingguang Yu, Ting Li, Wang Liran, et al. Comparative Characterization of Odor-Active Compounds and Fatty Acids in Five Pork Cuts. Molecules 2026-10-12. DOI: 10.3390/molecules31203642. 原著ライセンス:CC BY.