この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLoS Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

レジ前の「誘惑」を規制する条例

スーパーなどのレジ周りには、キャンディーやスナック菓子、砂糖入り飲料が並んでいることがよくあります。研究チームによると、こうした配置はメーカーが販売契約を通じて費用を払って確保しているもので、列に並んで待つ客の衝動買いを促すことが知られています。米国では成人の36%がレジ周りの食品や飲料を購入しているとされ、社会経済的に不利な地域や黒人・ヒスパニック系住民の多い地域ほど不健康なレジ環境にさらされやすいことも報告されています。

こうした状況への公衆衛生上の対策として、レジ周りに置ける商品を法的に制限する政策が登場しています。カリフォルニア州ペリス市は2024年1月、レジ周りには一定の栄養基準を満たす食品・飲料しか置けないとする「健康的なレジ条例」を施行しました。米国ではバークレー市に次ぐ2例目、世界ではイングランドを含めて3例目です。対象は市内で食料品を扱う一定規模以上の大型店で、レジから約1.8メートル(6フィート)以内の商品が規制されます。置けるのは、カロリーのある甘味料を含まない水、低カロリー飲料、果物、野菜、ナッツ、種子類、豆類などです。

ただし、ペリス市の条例はバークレー市のものと比べて、規制範囲がレジから一定距離内に限られている点や、果物やナッツなどを原材料の先頭に持つ食品を栄養量にかかわらず認めるなど基準が緩やかな点で異なります。研究チームは、こうした義務的な政策が実際の売り場をどの程度変えたのかを確かめるため、施行約半年後のレジ周りの変化を調べました。

店頭の写真から6万点以上の商品を分類

研究は、政策が導入された地域と導入されていない地域を比べる「自然実験」の手法をとりました。条例の対象となるペリス市内の13店すべてと、所得や教育水準、民族構成、出店しているチェーンなどがペリス市に似た近隣3市(モレノバレー、リアルト、リバーサイド)の51店を対象に、2023年6月(施行前)と2024年6月(施行約半年後)の2回、調査員が店を訪れてレジ周りを撮影しました。

分析の単位は、客に向かって並んでいる個々の商品の「顔」、つまり手に取れる状態で陳列されている一つ一つの商品です。同じ商品が横に並んでいればそれぞれを数え、奥に重なっているものは数えません。写真から商品の種類やレジからの距離を判定し、栄養成分の情報と照らし合わせて条例の基準を満たすかどうかを分類しました。最終的に約6万5千点が分析対象となりました。なお、日用品など食品・飲料以外の商品は基準を満たすものとして扱われています。

分析では、ペリス市での施行前後の変化が、比較都市での同じ期間の変化とどれだけ違うかを比べる方法(差の差分析)を用いました。これにより、条例とは関係なく地域全体で起きていた変化の影響を差し引いて評価することを目指しています。

規制範囲内では改善、範囲外では変化は限定的

論文によると、規制対象となるレジから約1.8メートル以内では、基準を満たす商品の割合がペリス市で50%から67%に上昇しました。比較都市では54%から52%とほぼ横ばいで、比較都市と比べた相対的な増加は37%と推定されています。食品・飲料だけに絞ると、基準を満たす割合はペリス市で36%から55%に上がり、比較都市(37%のまま)と比べた相対的な増加は52%でした。品目別では、基準を満たす飲料、なかでも甘味料を加えていない果汁100%ジュースの割合が増えていました。

一方で、レジから約1.8メートルより離れた場所では改善は小さく、統計的に意味のある変化とはいえませんでした。売り場の場所別に見ても、有意な改善が見られたのはレジ本体の周辺だけで、レジ列の端の棚(エンドキャップ)や独立した陳列台、列が蛇行する通路部分では明確な変化は確認されませんでした。研究チームは、砂糖入り飲料の割合が有意に変わらなかった理由として、飲料の多くが規制範囲外になりやすいエンドキャップに置かれていたことを挙げています。

店の種類による違いもありました。大型総合量販店とチェーンのスーパーマーケットでは改善が大きく、量販店では施行後の基準適合率がほぼ100%に達しました。これに対し、個人経営などの独立系食料品店では適合率が最も低いままでした。また、施行後も規制範囲内の商品の約3分の1は基準を満たしていませんでした。

政策の設計が効果を左右する

研究チームは、ペリス市の条例が特に規制対象の範囲内でレジ周りの環境を健康的な方向に変えたと結論づけています。ただし、施行1年後に適合率が83%に達したと報告されているバークレー市の例と比べると、効果は小さいものでした。著者らは、規制範囲がレジ周辺に限られていること、基準が比較的緩やかなこと、評価時点が施行から半年と短いことなどが差の一因となった可能性を指摘し、同様の政策を検討する自治体にとっては、より厳しい基準をレジ周り全体に適用するほうが効果的かもしれないと述べています。

今回の研究が調べたのは店頭に並ぶ商品の変化であり、客の購買行動や健康への影響を直接測ったものではありません。それでも、規制がどこまでを対象にし、どのような基準を定めるかによって、売り場の変わり方が大きく異なりうることを実際のデータで示した点に、この研究の意味があります。

著者:Yuru Huang(University of California)、Ethan C. Wolf(UC Berkeley School of Public Health)、Andrea M Gil(Institute of Global Nutrition, University of California)、Kris Jayme G. Matas(University of California)、Lisa M. Powell(University of Illinois Chicago)、Rebecca M. Schermbeck(University of Illinois Chicago)、Jennifer Falbe(Institute of Global Nutrition, University of California)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuru Huang, Ethan C. Wolf, Andrea M Gil, et al. The retail food environment following a mandatory healthy checkout policy: A natural experimental evaluation. PLoS Medicine 2026-09-16. DOI: 10.1371/journal.pmed.1004814. 原著ライセンス:CC BY.