入院中の食事というと、多くの人は「治療の合間に出てくる給食」というイメージを持つかもしれません。しかし近年、病院食は単なるカロリー補給の手段ではなく、治療そのものを支える臨床ケアの一部として捉え直されつつあります。特に、重度の精神疾患を抱える患者は栄養失調や心血管代謝疾患のリスクが高いことが知られており、精神科病棟における食事のあり方は見過ごせないテーマです。とはいえ、実際に栄養ケアの最前線に立つ専門家たちが、どのような食事コンセプトを理想と考えているのかは、これまであまり明らかにされてきませんでした。今回紹介する研究は、この点に焦点を当てたものです。

どのように調べたのか

研究チームは、ドイツ語圏(ドイツ・オーストリア・スイス、通称D-A-CH地域)の精神科施設で働く栄養専門職26名を対象に、匿名のオンライン調査を実施しました。回答者には、入院患者向け食事コンセプトに関する「目標」「患者ニーズ」「食事形態」「食事の特徴」「組織運営上の課題」「障壁」といった項目を、5段階のリッカート尺度(5段階評価)で評価してもらいました。あわせて自由記述の回答も集められ、テーマ別に分析されています。

調査からわかったこと

結果として、回答者たちは経済的な目標よりも「食事を楽しむこと(平均4.65点)」や「精神的な安定」を優先すべきだと考えていることが示されました。また、患者のニーズとしては、食欲不振と過食(ハイパーファジア)の両方、そして薬物療法に伴う代謝の変化が重要だと評価されています。

食事の形態については、地中海式の食事パターンが最も支持され(平均4.62点)、逆に低炭水化物食は最も支持が低い形態でした(平均2.65点)。さらに、全項目の中で最も高く評価されたのは「看護スタッフ・厨房・栄養部門間の多職種連携によるコミュニケーション」であり(平均4.75点)、専門家たちがこの連携を極めて重視していることがうかがえます。一方で、こうした理想的な食事コンセプトを実現する上での主な障壁としては、予算の制約が挙げられています。

この研究を読むうえでの注意点

この調査は、26名という小規模かつ自ら回答に応じた専門家(自己選択サンプル)を対象にしたものであり、得られた結果は精神科の栄養専門職全体を代表するものとは限りません。あくまで、この調査に参加した専門家たちの意見が集約されたものであるという点に留意が必要です。それでも、患者中心で、地中海式食事を基本としつつ柔軟に選択できる食事の提供と、それを支える強い多職種連携の重要性について、専門家の見解がおおむね一致していたことは、病院食を「給食」から「治療の一部」へと位置づけ直す動きを後押しする材料といえそうです。

まとめ

今回の調査では、精神科病棟の食事を考える専門家たちが、経済性よりも患者の食の楽しみや心理的安定を重視し、地中海式食事や多職種連携を鍵として捉えていることが示されました。これは一つの調査研究であり、結論が確定したものではありませんが、精神科医療における「食」の役割を考える上で興味深い視点を提供してくれます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:給食から臨床ケアへ:精神科入院患者向け食事コンセプト設計に関する専門家調査(ニュートリエンツ・2026年07月)