国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」には、貧困や飢餓の解消、健康、教育、平等、気候変動対策など幅広いテーマが含まれています。今回紹介するのは、こうしたSDGsの達成と、心血管代謝疾患(心臓病や糖尿病など)をはじめとする慢性疾患の予防とを結びつけて論じた、国際栄養学会と第28回世界臨床栄養学会議(インドネシア・ボゴール開催)による国際コンセンサス科学声明です。食生活の変化と地球環境の変化が、実は密接に関わっているかもしれないという視点が興味深い論文です。
どのように調べたのか
この論文は、特定の実験や臨床試験を新たに行ったものではなく、既存の研究や資料を幅広く読み解いて論点を整理する「ナラティブレビュー」という形式でまとめられています。世界保健機関(WHO)のデータベースや、Google Scholar、MEDLINE(PubMed)、Web of Science、EBSCOといった学術データベースに加え、公的でない各種資料(いわゆるグレイ文献)も対象に、心血管疾患・肥満・糖尿病・がんに関連する文献が集められました。さらに、栄養学分野の専門家の意見や、論文の全著者の見解も合わせて反映されているとのことです。
論文で示されている内容
声明では、健康に関する教育や動機づけ、そして文化的な要因が、人々の健康全体やSDGs達成にとって重要であると指摘されています。一方で、低・中所得国では経済発展に伴う急速な食生活・生活習慣の変化により、不健康な行動や心血管代謝疾患などのリスク要因が急増しているとされました。高所得国では、教育や予防戦略の普及によって心血管疾患による死亡率がある程度減少してきたものの、心血管代謝疾患やがんは依然として主要な死亡・疾病要因であり続けていると述べられています。
興味深い指摘として、第二次世界大戦の最中から戦後にかけての1940年代から1965年頃までは、多くの国で食料が乏しかった時期であり、その間は心血管疾患や糖尿病のリスクが低かったとされています。その後の急速な工業化・都市化は、地球環境の悪化や土壌の劣化、持続可能で機能的な農業の衰退と関連しており、栄養価の高い食品の生産量減少につながったと論じられています。こうした食料事情の変化は、高カロリーで不健康な食品や西洋型の食事パターンの増加と結びつき、非感染性疾患(NCDs)のリスクを高めてきたとされました。
声明はまた、地球規模での自然システムの劣化が、エネルギー・食料・水の不足を悪化させ、疾病や災害、人口移動、紛争のリスクを高めていると警鐘を鳴らしています。加えて、貧困や教育の不足、健康教育・動機づけの不十分さ、各国・地方政府の政策の実効性の低さなどが、これらの疾患リスク増加の重要な決定要因である可能性が示されています。低・中所得国の都市部や、高所得国に暮らす移民集団では、一部の高所得国の集団と比べて心血管代謝疾患や他の慢性疾患の割合が著しく高いことも指摘されました。
そのうえで声明は、土壌の改善や機能的な農業の推進、食品産業への働きかけを通じて、植物性食品を中心とし動物性食品を控えめにした伝統的な食事を支援することが急務であると述べています。豆腐やテンペといった大豆製品、雑穀、豆類・レンズ豆・えんどう豆(1日400g程度)、緑黄色野菜や果物・ナッツ類(1日400g程度)、植物油、低脂肪乳製品、料理用スパイス、そして魚介類を中心とした少量の肉といった、動物性食品の高たんぱく代替食品の活用が、健康の増進と非感染性疾患の予防に役立つ可能性があるとされています。また、妊娠前・胎児期・出生後の時期における健康教育やより健康的な生活習慣・行動の推進についても言及されています。
この研究を読むうえでの注意点
この論文は、新たな実験や臨床試験によってある食品の効果を直接検証したものではなく、既存の文献や専門家の見解を整理した国際的なコンセンサス声明です。そのため、示されている内容は特定の食品が病気を予防する、あるいは改善するといった断定的な結論ではなく、専門家グループによる見解や提言として理解する必要があります。また、要旨で紹介されている内容は声明全体の一部であり、伝統食や植物性食品を巡る議論は、社会経済的な要因や政策、環境問題など幅広い文脈の中で論じられている点にも留意が必要です。
まとめ
この国際コンセンサス声明は、心血管代謝疾患をはじめとする慢性疾患の増加を、個人の食生活だけでなく、都市化・工業化に伴う環境や農業の変化、教育や政策といった社会的な背景とあわせて捉えている点が特徴的です。そのうえで、大豆製品や豆類、野菜・果物・ナッツなどを中心とした伝統的な食事パターンが、健康増進と持続可能な社会の実現の両面で意義を持つ可能性が示唆されています。今後、こうした視点がどのように具体的な政策や研究に結びついていくのか、続報にも注目したいところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:心血管代謝疾患の予防と国連の持続可能な開発目標のための持続可能な食事と機能性食品:国際栄養学会および第28回世界臨床栄養学会議(インドネシア・ボゴール)による国際コンセンサス科学声明(BMC・カーディオバスキュラー・ディスオーダーズ・2026年07月)