お刺身やエビなど生鮮食品を買うとき、「今、どれくらい新鮮なのか」を一目で確かめられたら便利だと思ったことはないでしょうか。近年、食品包装の分野では、色の変化によって食品の状態を知らせる「インジケーターフィルム」の開発が進められています。今回紹介する研究は、紫サツマイモに含まれる色素(アントシアニン)を利用して、こうした鮮度検知フィルムを作り、エビの保存試験で実際に使えるかを調べたものです。
アントシアニンは周囲のpH(酸性・アルカリ性の度合い)によって色が変わる性質を持つことが知られています。食品が傷んでいく過程では、成分の分解によってpHが変化することがあるため、この性質を「見える化」の指標として使えるのではないか、という発想がこの研究の出発点になっています。
研究でわかったこと
研究チームは、紫サツマイモのアントシアニンをpHに反応する指示薬として使い、キトサンと可溶性デンプンをフィルムのベースとなる素材、グリセリンを柔軟性を持たせるための添加剤として用いて、フィルムを作りました。アントシアニンの配合量を0%、20%、26%、33%の4段階に変えたフィルムを、溶液を型に流して乾燥させる「キャスト法」という方法でそれぞれ作製し、構造や強度、pHへの反応性がどう変わるかを比較しています。
その結果、作られたフィルムは厚みが均一で、柔軟性にも優れていたと報告されています。アントシアニンの添加量を増やすほどフィルムの色の違い(色差ΔE)が大きくなり、引張強度は最大で19.336MPaに達したとされています。また、周囲のpHが変化すると、フィルムの色も敏感に変化し、目で見てすぐに違いが分かる応答性を示したということです。
これらの結果をもとに、「キトサン・可溶性デンプン・紫サツマイモアントシアニン」を組み合わせた3成分の複合インジケーターフィルムが開発されました。このフィルムを4℃で保存したバナメイエビ(東南アジアなどで広く養殖されているエビの一種)の鮮度モニタリングに応用したところ、フィルムの色は保存開始から5日かけて、濃い紫色から黄緑色へと徐々に変化したと報告されています。さらに、この色の変化(ΔE)と、エビのpH値、TVB-N(総揮発性塩基窒素、鮮度低下の指標として使われる成分)の量、そして人の感覚による評価(見た目やにおいなどの官能評価)との関連を多角的に調べたところ、これらの間には高い一致が見られ、フィルムによる鮮度検知の有効性と感度が確認された、とされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、天然の色素や多糖類を使った「見てわかる」食品包装フィルムの設計や性能向上に向けた基礎的な知見を提供するものと位置づけられています。今回の結果はバナメイエビを対象とした保存試験に基づくものであり、他の食品や保存条件でも同様の結果が得られるかどうかは、この要旨だけでは分かりません。あくまで一つの研究成果であり、実用化に向けてはさらなる検証が必要になると考えられます。
まとめ
紫サツマイモのアントシアニンを使ったpH応答性フィルムは、色の変化を通じてエビの鮮度に関わる指標と高い一致を示したことが報告されました。身近な天然素材が、食品の状態を「見える化」する技術につながるかもしれないという点で、今後の展開が注目される研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:紫サツマイモアントシアニンを基盤としたpH応答性インジケーターフィルムの調製とバナメイエビの鮮度検知への応用(粮油食品科技・2026年07月)