柔道やレスリング、ボクシングなど階級制の格闘技では、試合前に体重を絞り込む『減量』が広く行われています。短期間で体重を落とすため、食事量や水分摂取を極端に制限することも多く、その結果として腹痛や下痢、消化不良といった消化器症状に悩まされる選手が少なくないと言われています。こうした急速減量が腸の状態にどう影響するのか、そしてそれを和らげる方法はあるのか——今回紹介する研究は、この身近だけれど見過ごされがちなテーマに焦点を当てています。
研究でわかったこと
この研究は、試合前に急速な減量を行うエリート男性格闘技選手24名を対象に行われました。選手たちは無作為に2つのグループに分けられ、一方には複合的なスポーツ用プロバイオティクス(1回1.5×10の10乗CFU、1日2回)、もう一方にはプラセボ(偽薬)が4週間にわたって与えられました。
その結果、プロバイオティクスを摂取したグループでは、プラセボ群と比べて消化器症状が有意に軽減したと報告されています。また、腸のバリア機能が乱れているかどうかを示す指標とされるゾヌリン、腸型脂肪酸結合タンパク(I-FABP)、D-乳酸といったマーカーの値も有意に低下したとのことです。さらに、腸管の免疫防御に関わるとされる分泌型免疫グロブリンA(SIgA)は増加し、全身性の炎症反応も抑えられる傾向が見られたと述べられています。
腸内細菌の構成にも変化があったとされ、酪酸を産生する有用菌とされる「ブラウティア(Blautia)」や「ラティラクトバチルス(Latilactobacillus)」が増加する一方、病原性が指摘される「ストレプトコッカス(Streptococcus)」属の菌は減少したことが確認されています。これらの結果から、著者らはプロバイオティクスの摂取が、急速減量中の格闘技選手において腸内の恒常性を保つための、安全で効果的な栄養戦略となり得ると結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
今回の研究は24名という限られた人数を対象にした試験であり、対象もエリート男性選手に限定されています。得られた結果が、女性選手や他の競技レベルの選手、あるいは異なる減量方法を行う人にもそのまま当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、あくまで一つの研究であり、これをもって結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。プロバイオティクスの摂取が特定の症状を『予防する』『治療する』と断定するものではなく、今回の試験条件下で観察された変化として理解するのが適切でしょう。
まとめ
試合前の急速減量は格闘技選手にとって避けて通れない過程である一方、消化器面への負担も大きいことが知られています。今回紹介した研究では、特定のプロバイオティクスの摂取によって、消化器症状の軽減や腸管バリア機能に関わる指標の改善、腸内細菌叢の変化が観察されたと報告されています。今後、より大規模な研究や異なる条件での検証が進めば、減量期の栄養サポートのあり方についてさらに理解が深まることが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:格闘技系アスリートの試合前減量期における腸管バリア機能に対するプロバイオティクス摂取の効果(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)