六月も中旬に入り、市場の魚介コーナーにずっしりとした足を広げた皮つきの生のまだこが並んでいます。包丁を入れるとき指に伝わってくる独特の弾力、加熱すればふわりと立ちのぼってくる磯の香り——たこは見た目のインパクトとは裏腹に、食卓に上がると不思議なほどすっきりと胃に収まる食材です。
旬の足もとを確かめる
まだこの旬は一般に春から夏にかけてとされ、六月はちょうどその盛りにあたります。たこ類の中でも流通量が多いのがまだこで、走りの緊張感はすでに過ぎ、今は食べごたえのある一本が手に入りやすい時期です。旬の盛りをひとつの目安として、冷蔵のケースをのぞく価値があります。
「軽いのに満ちる」という発見
まだこ100gあたりのエネルギーは70kcal、たんぱく質は16.1g、脂質はわずか0.9gという構成です。数字だけ見ると控えめな印象ですが、足1本の生重量は約150gあります。廃棄率15%(皮・吸盤など)を考慮すると可食部は約127.5gになり、足1本分のエネルギーは約89kcal、たんぱく質は約20.5gほどになります。
たんぱく質は筋肉や臓器など体をつくる材料となる栄養素で、毎日の食事で欠かさず補いたいものの一つです。日本人の食事摂取基準で女性(30〜49歳)の推奨量を1日50gとすると、まだこ100gあたりのたんぱく質16.1gはその約32%に相当します。足1本(生重量約150g・可食部約127.5g)で食べれば、この16.1gをベースに換算した約20.5gは推奨量の約41%をひとつの食材でまかなえる計算です。一方で脂質は前述のとおり100gあたり0.9gと少なく、炭水化物も0.2gにとどまります。食べごたえのある足一本を味わいながらカロリーを抑えやすい——これが「軽いのに満ちる」と感じさせる正体です。ただし脂質はゼロが理想ではなく、脂溶性ビタミンの吸収や必須脂肪酸の補給に欠かせない栄養素でもあります。たこと合わせて、青魚の脂やオリーブオイルなど良質な脂質を他の食材で取り入れ、食事全体のバランスをとりたいところです。暑くて食欲が揺らぎはじめる六月の食卓に、たこがよく似合う理由がここにあります。
なお、まだこ100gあたりの食塩相当量は1gで、足1本(生重量約150g・可食部約127.5g)の可食部分なら約1.3g程度になります。刺身や薄味の料理で食べるぶんには過度に気にする必要はありませんが、塩ゆでや味つきの惣菜を選ぶときは全体の塩分とのバランスを意識するとよいでしょう。
旬のたこを、シンプルに楽しむ
せっかくの旬なら、素材の味を最も引き立てる食べ方で。生のまだこは薄くそいでわさび醤油で食べる刺身がまず一手。ぷりっとした食感と、かすかな甘みのある旨みが口のなかで弾けます。生食の際は新鮮なものを選んでください。なお、リステリア菌やビブリオ菌などの食中毒リスクがあるため、妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は加熱調理をおすすめします。
少し手を加えるなら、たこのたたき風も夏向きです。足をさっと表面だけ炙り、薄切りにしてポン酢とあさつき、おろし生姜を添えればさっぱりとした一皿になります。冷やしておいて、冷たいまま食卓に出すと夏の暑さの中でも箸が進みます。
定番のたこ焼きや酢の物も、旬の生だこで作ると歯ごたえが格段に違います。きゅうりや若布との酢の物は、たこのたんぱく質と野菜のさっぱり感が合わさって、夏の副菜として重宝します。
今、買いに行く理由
六月はまだこの旬の盛りにあたり、手に取りやすい季節です。低脂質・高たんぱくという栄養の実数は、夏に向けて食事を少し整えたいと思ったときの後押しになります。難しい調理は不要で、刺身用に下処理されたものを買ってきてそのまま食べるだけでも十分においしいです。六月の食卓に、まだこの一本を加えてみてください。
栄養成分値は日本食品標準成分表(八訂)による可食部100gあたりの実測値。食事摂取基準の数値は日本人の食事摂取基準による。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。