この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Aging
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
年齢が上がるにつれて歯を失う人は増えます。世界保健機関のデータをもとにすると、高齢者で歯の喪失がみられる割合は世界全体でおよそ20%と推定されると論文は紹介しています。歯を失うと噛む力が落ち、食べられるものが限られて食事の内容が偏りやすくなることが、これまでの研究で指摘されてきました。
研究チームは、こうした背景のもとで「残っている歯の本数」と「食事がもつ炎症の強さ」とのあいだに関連があるかどうかを、メキシコの高齢者を対象に調べました。著者らによれば、歯の保持と食事の炎症性との関係を扱った証拠は、とくにラテンアメリカの集団では乏しいままだといいます。
調べ方
用いられたのは、メキシコの公的医療機関の記録から参加者を無作為に選んで2014年に始まった高齢者の集団研究(COSFAMM)の2019年調査のデータです。研究チームは60歳以上の参加者1,677人のうち、面接や口腔内診査を終えていない人、1日のエネルギー摂取量が極端な値(500kcal未満または6,500kcal超)の人などを除いた1,075人を解析対象としました。これは一時点のデータを横断的に分析した研究です。
口の状態は、研修を受けた歯科医が照明器具と歯鏡、探針を使って診査し、残っている自然歯の本数によって「21〜28本」「11〜20本」「1〜10本」「無歯(まったく歯がない)」に分けられました。あわせて、噛むなどの働きに最低限必要とされる20本以上の歯があるかどうかを「機能的歯列」の有無として記録しています。
食事は、過去1年間の食品摂取を尋ねる110項目の食物摂取頻度調査票で把握し、そこから「食事性炎症指数(DII)」を算出しました。DIIは、エネルギーや各種栄養素、ポリフェノールなどの成分それぞれに、炎症を促す向きか抑える向きかの重みを与えて合計する指標で、抗炎症的から炎症促進的までを連続した尺度で表します。この研究では指数の値によって参加者を下位25%・中間50%・上位25%の3群に分け、年齢、教育、婚姻状況、喫煙、認知機能を考慮した統計モデルで歯の本数との関連を調べました。
報告された主な結果
まず参加者の特徴として、歯が多く残っている人ほど年齢が若く(21〜28本の群は平均65.68歳、無歯の群は平均70.25歳)、教育年数が長く、喫煙者の割合が低く、認知機能の検査(MMSE)の点数が高い傾向がみられました。一方で、糖尿病と高血圧の有無については群間に統計的な差はありませんでした。
食事の炎症の強さごとに歯の状態を比べると、より炎症促進的な食事の群では、20本以上の歯がそろった「機能的歯列」をもつ人の割合が低く、歯を多く失った人や無歯の人の割合が高くなっていました。機能的歯列が欠けている人の割合は、炎症が最も低い群で67.2%、中間群で71.1%、最も炎症促進的な群で81.3%でした。
年齢などの影響を調整した解析では、自然歯が1〜10本の人は、21〜28本の人に比べて、より炎症促進的な食事の分類に入る見込みが約2.2倍高いという結果が報告されています(オッズ比2.19、95%信頼区間1.44〜3.33)。11〜20本の群では統計的に意味のある差はみられませんでした。無歯の群は、調整前の解析ではオッズ比2.13と有意でしたが、調整後は統計的な有意差には届きませんでした(オッズ比1.64、95%信頼区間0.95〜2.81)。栄養素の摂取量では、無歯の人は歯が21〜28本の人より炭水化物の摂取量が多く、食物繊維やコレステロールには群間の有意な差はありませんでした。
この結果が示すもの
著者らは、歯をどれだけ保てているかが高齢者の食事の炎症性と密接に関連していると述べ、口の健康を栄養の評価や健やかな加齢に向けた取り組みのなかに位置づけることの重要性を指摘しています。
ただし論文は、この研究が一時点のデータであるため、どちらが先かという時間的な順序や因果の向きは決められないと明確に述べています。炎症促進的な食事が歯の喪失につながりやすくする可能性と、歯を失って噛みにくくなったことで柔らかく加工された食品に食事が傾く可能性の両方が考えられ、どちらか一方に限られるわけでもないとしています。また、歯の本数と機能的歯列は評価したものの、歯周の状態やむし歯、義歯の使用、実際の咀嚼能力などは測定していないことを限界として挙げ、関連の向きを明らかにするには長期的に追跡する研究が必要だとしています。
それでも、口の状態と食事の質が互いに切り離せない形で結びついていることを示した点に、この報告の意味があります。高齢者の食事を考えるとき、何を食べるかという話だけでなく、噛むための歯がどれだけ残っているかという視点も欠かせないことを、この研究は具体的な数字とともに伝えています。
著者:Lyzbeth Beatriz Ortíz-Barrios(Posgrado en Ciencias Médicas Odontológicas y de la Salud, Universidad Nacional Autónoma de)、Paola García-DelaTorre(Unidad de Investigación Epidemiológica y en Servicios de Salud, Área de Envejecimiento, Centro Médico Nacional SXXI)、Berenice Rivera‐Paredez(Centro de Investigación en Políticas, Población y Salud, Facultad de Medicina)、Sergio Sánchez‐García(Unidad de Investigación Epidemiológica y en Servicios de Salud, Área de Envejecimiento, Centro Médico Nacional SXXI)、Berenice Palacios‐González(Laboratorio de Genómica del Envejecimiento del Instituto Nacional de Medicina Genómica (INMEGEN) en el Centro de Investigación sobre Envejecimiento)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lyzbeth Beatriz Ortíz-Barrios, Paola García-DelaTorre, Berenice Rivera‐Paredez, et al. Association between tooth retention and lower inflammatory dietary pattern in older adults. Frontiers in Aging 2026-10-02. DOI: 10.3389/fragi.2026.1945744. 原著ライセンス:CC BY.