この研究は、韓国、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜコチュジャンと腎臓を調べたのか
肥満は腎臓を傷つける要因の一つとして知られています。論文の序論によると、脂肪分の多い食事や塩分の多い食事は体重を増やすだけでなく腎臓の健康にも影響し、適切な対処がないまま酸化ストレスや炎症が続くと慢性腎臓病へ進むとされています。そのため著者らは、腎臓の健康を保つ食事や食品による対策を探ることが重要だと位置づけています。
著者らが注目したのは、韓国の伝統的な発酵食品であるコチュジャンです。コチュジャンは発酵の過程で有用な微生物や生理活性成分が生じる食品で、これまでに抗炎症作用などが報告されてきました。一方で、この種の発酵食品は塩分が高いため、腎臓への負担や高血圧のリスクが懸念されてもいます。論文では、同じく韓国の発酵食品であるテンジャンが高塩分にもかかわらず高血圧のリスクを上げなかったという報告が「Korean paradox(韓国のパラドックス)」として紹介されており、食卓塩の塩分と発酵食品中の塩分では影響が異なる可能性が示唆されています。
そこで研究チームは、(1)肥満による腎障害に対するコチュジャンの腎保護作用を調べる、(2)その細胞・分子レベルの仕組みを探る、(3)コチュジャンによる腸内細菌の変化と腎障害の指標との関連を調べる、という三つの目的を立てました。さらに、食卓塩そのものの影響と発酵食品中の塩分の影響を比べるため、塩を加えた群も設けています。
細胞と動物で何を調べたか
研究チームはまず、次世代シーケンシングで微生物組成を調べた76点のコチュジャン試料のうち、細菌の構成をもとに2種類(論文ではKTG #1、KTG #2と呼ばれます)を選びました。この2種からエタノール抽出物を作り、総ポリフェノール量や総フラボノイド量、ラジカル(活性の高い分子)を消去する抗酸化能を測定しています。報告によると、2種は微生物組成も化学的な特徴も互いに異なっていました。
細胞の実験には、ヒトの腎臓の尿細管に由来するHK-2という細胞が使われました。脂肪酸の一種であるパルミチン酸を加えて細胞内に脂肪をためさせた場合と、炎症を引き起こす物質IL-1βを加えた場合の二つの条件で、コチュジャン抽出物を加えた際の変化を観察しています。
動物実験では、オスのマウスを5群に分け、13週間にわたって食事を与えました。通常食の群、高脂肪食の群、高脂肪食に食卓塩0.7%を加えた群、そして高脂肪食にコチュジャン(2種類それぞれ)を10%加えた2群です。論文によると、食卓塩を加えた食事は、コチュジャン入り食事に含まれる食塩量に合わせて設計され、コチュジャン入り食事ではたんぱく質・糖質・脂質・エネルギーの差を他の材料で調整しています。評価項目は体重や摂食量、血中の中性脂肪・総コレステロール、腎機能の指標である血中尿素窒素(BUN)、腎障害の指標となるタンパク質KIM-1、腎臓の組織標本の観察、炎症に関わるタンパク質、そして糞便から調べた腸内細菌の多様性と構成です。
報告された主な結果
細胞実験では、パルミチン酸によって増えた細胞内の脂肪が、コチュジャン抽出物を加えた条件で有意に減ったと報告されています。またIL-1βで炎症を起こした細胞では、炎症に関わるp-ERK、p-JNK、TNF-α、IL-1βといったタンパク質の量が抽出物の前処理によって明確に低下し、p-NF-κBはわずかな低下でした。
マウスでは、高脂肪食の群と食卓塩を加えた群で通常食の群より体重が増えましたが、コチュジャンを加えた2群はこれらより体重の増加が有意に小さかったと報告されています。高脂肪食を与えた群の間で摂食量に有意差はありませんでした。血中の中性脂肪はコチュジャン群で有意に低く、総コレステロールは低下する傾向が見られました。
腎臓については、血中尿素窒素が食卓塩の群で通常食より有意に高く、高脂肪食だけの群の上昇は統計的に有意ではありませんでした。コチュジャンの2群はいずれも、高脂肪食群・食卓塩群より低い値でした。腎障害の指標KIM-1も、高脂肪食群と食卓塩群では通常食群より有意に高く、コチュジャン群では両群より有意に低い値だったと報告されています。組織の観察では、高脂肪食群と食卓塩群に糸球体の構造変化や尿細管の拡張などが見られ、コチュジャン群では構造がより整い、こうした変化が軽くなっていました。炎症に関わるタンパク質では、p-IκBとp-NF-κBが高脂肪食群と食卓塩群で上昇し、コチュジャン群では食卓塩群に比べて有意に低下していました。TNF-αもコチュジャン群で両群より低い値でした。なお、線維化の指標として知られるα-SMAはコチュジャン群で増えており、著者らはこれを予想外の結果として、組織の修復に関わる可能性を含めさらなる検討が必要だと述べています。
腸内細菌については、コチュジャンの2群でいずれも菌の種類の豊かさが高脂肪食群・食卓塩群より有意に増えていました。門(もん)という大きな分類の単位で見ると、高脂肪食群と食卓塩群ではFirmicutesの割合が増えてBacteroidetesが減り、コチュジャン群ではその逆の変化が見られました。属(ぞく)という細かい単位では、BacteroidesやMuribaculum、Faecalibaculumが増え、LactobacillusやClostridiumの増加は抑えられていました。さらに、こうした細菌の変化と、体重・脂質・BUN・KIM-1・炎症性物質といった指標との間に統計的な相関が認められたと報告されています。ただし著者らは、これは関連を示すものであって因果関係を示したものではないと明記しています。
論文は限界もあげています。腎機能の血液指標としてBUNという一つの指標しか測っておらず、BUNは食事のたんぱく質量など腎機能以外の要因にも左右されるため、クレアチニンなど他の指標も今後必要だとしています。また、作用のもとになる個々の成分は十分に特定されていません。
この研究が示していること
著者らは、高脂肪食による肥満モデルのマウスと腎臓由来の細胞において、コチュジャンが脂肪の蓄積と炎症に関わる変化を抑え、腎障害の指標や腎臓の組織の状態を改善したと報告しました。しかも、同じ量の食塩を加えた食卓塩の群では腎障害の指標がより悪化したのに対し、コチュジャンは高い塩分を含みながら保護的な結果を示しており、著者らはこれを「Korean paradox」を支持する所見と位置づけています。
あわせて、コチュジャンが腸内細菌の多様性と構成を変え、その変化が腎障害の指標と相関していたことは、腸と腎臓のつながりという視点から食品の働きを考える手がかりになります。著者らはこれらの結果を、肥満に関連する腎障害の軽減を目指す機能性食品としてのコチュジャンの可能性を支持するものとしつつ、仕組みの解明とヒトでの検証が引き続き必要だとまとめています。
著者:So-Min Oh(Department of Food Science and Human Nutrition Jeonbuk National University Jeonju Jeollabuk‐do Republic of Korea)、Un‐Seong Na(Department of Food Science and Human Nutrition Jeonbuk National University Jeonju Jeollabuk‐do Republic of Korea)、Do‐Youn Jeong(Microbial Institute for Fermentation Industry Sunchang Korea)、Hayoung Woo(Department of Nutritional Sciences University of Connecticut Storrs Connecticut USA)、Anna Han(Department of Food Science and Human Nutrition Jeonbuk National University Jeonju Jeollabuk‐do Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):So-Min Oh, Un‐Seong Na, Do‐Youn Jeong, et al. Despite Its High Salt Content, Gochujang Attenuates Obesity‐Induced Inflammatory Kidney Damage in Association With Gut Microbiota Modulation. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72317. 原著ライセンス:CC BY.