多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄などの神経を包む組織が自分の免疫によって傷つけられてしまう病気で、手足のしびれや視力の低下などさまざまな症状を引き起こすことが知られています。これまでの観察研究では、食習慣がMSの発症に関わっている可能性が指摘されてきましたが、こうした研究では「食習慣が原因でMSになりやすくなった」のか、それとも「別の要因が食習慣とMSの両方に影響していた」だけなのかを区別することが難しいという課題がありました。そこで近年注目されているのが、遺伝情報を手がかりに因果関係に迫る「メンデルランダム化(MR)」という手法です。今回紹介する研究は、このMR手法を用いて、食習慣とMSの関係を改めて検討したものです。
研究でわかったこと
この研究は「二標本メンデルランダム化研究」と呼ばれる手法を用いています。生まれつき決まっている遺伝的な特徴(遺伝子多型)は、生活習慣とは違って後から変化しにくいため、これを手がかりにすることで、食習慣とMSの間に見せかけではない因果関係があるかどうかを調べやすくなるという考え方に基づいています。研究チームは、ヨーロッパ系の人々を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)の公開データ(IEU Open GWASプロジェクト)を用いて、21種類の食習慣とMSの発症リスクとの関連を検討しました。解析には、IVW(逆分散加重法)を中心に、MR-Egger法、加重中央値法など複数の統計手法が使われ、結果に偏り(多面的関連性)やばらつき(異質性)がないかについても、それぞれMR-Eggerの切片検定やCochranのQ検定を用いて確認されています。
その結果、外れ値を除いた解析において、脂の多い魚(オイリーフィッシュ)の摂取が遺伝的に多いと推定される人ほど、MSのリスクが低い傾向と有意に関連していることが示されました(オッズ比0.557、95%信頼区間0.351〜0.884、p=0.013)。この関連は、複数の手法を用いた詳細な感度分析でも一貫して確認されたと報告されています。一方で、今回検討された脂の多い魚以外の20種類の食習慣については、MSリスクとの明確な関連は認められなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、遺伝統計データを用いた解析によって、食習慣とMS発症リスクとの関連を示唆する結果を報告したものです。ただし、これは一つの研究であり、これのみでMSの発症や予防のメカニズムがすべて解明されたと結論づけられるものではありません。また、今回の解析対象はヨーロッパ系の人々のデータであるため、他の集団にそのまま当てはまるかどうかは、この要旨からは分かりません。脂の多い魚の摂取がMSを「予防する」と断定するものではなく、あくまで遺伝統計に基づく関連性の検討として捉えることが大切です。
まとめ
今回紹介したメンデルランダム化研究では、脂の多い魚の摂取が多い人ほど多発性硬化症のリスクが低いという関連が示唆され、他の食習慣については明確な関連は見られなかったと報告されています。今後、こうした知見がどのように積み重ねられ、検証されていくのか、引き続き注目していきたいテーマです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:脂の多い魚の摂取と多発性硬化症の因果関係の検討:二標本メンデルランダム化研究(パブメド・2026年12月掲載予定)