スーパーの棚に並んだ青い実を、「来週でいいか」と通り過ぎた経験はないだろうか。うめ 生は、置いておくだけで黄色く完熟へと変わっていく。冷蔵庫に入れると味が落ちる。つまり、青梅を青梅として仕込める時間は、買ったその日しかない。6月下旬、梅の季節は今まさに盛りを迎えているが、この"一瞬の旬"に気づいたなら、今日が動き出す日だ。
青い実と黄色い実——どちらを選ぶかが、梅仕事の出発点
梅には、大きくふたつの顔がある。まだ青いうちに収穫した青梅と、木の上で黄色く完熟した完熟梅だ。青梅は梅酒や梅シロップへ、完熟梅はその香りの強さを活かして梅干しへ——どちらを選ぶかが、仕込みの始まりの楽しさでもある。
なお、未熟な青梅を生のまま食べることは避けてほしい。青梅にはシアン化合物という天然の成分が含まれ、生食は中毒を起こすことがあるとされる。梅酒や梅干しなどへの加工・熟成を経ることで安全に楽しめるとされ、だからこそ「仕込む」工程が、安全においしくする鍵になる。
日本の梅の収穫量のうち、64%を和歌山県が占める(令和5年産・全国の収穫量は約9.6万トン)。南高梅という大粒の品種が代名詞で、完熟させたその香りは梅干し用として全国に届く。群馬、福井、山梨、三重と続く産地も、それぞれに品種と用途の個性を持っている。梅を買うとき産地に目を向けると、仕込みが少しだけ深くなる。
小さな実に詰まっているもの
梅の実はそれほど大きくない。可食部100gあたりのエネルギーは33kcalと控えめで、主な成分は炭水化物7.9gと食物繊維2.5g。青梅1個は約15g、梅干し用の完熟梅1個は約40gを目安にするとイメージしやすい。食物繊維2.5gのうち不溶性が1.6g含まれ、不溶性食物繊維は便のかさを増やして腸の動きを助ける働きに関わるとされる成分だ。※特定の食品の効果を示すものではありません。
ただ、梅をそのまま何十個も食べるわけではない。梅仕事の主役はあくまで「仕込んだものを長く楽しむ」こと——栄養は、梅を選ぶ理由の一つに過ぎない。
今日仕込むか、冷凍して週末に仕込むか
どうしても今日すぐ仕込めない、という日もある。そんなときのために、梅は冷凍保存という選択肢がある。水に浸けてアクを抜き、ヘタの部分を取って水気をよく拭いたら、密封保存袋に入れて冷凍庫へ。この手順を踏めば、週末や少し落ち着いた日に仕込み直しができる。
梅シロップなら、消毒した容器に青梅と氷砂糖を交互に入れていくだけ。砂糖が溶けきれば飲みごろだ。梅酒なら、そこに焼酎を注いで漬け込む。仕込みそのものは10分もかからない。そして夏を越えるころには、しっかり色づいた一瓶が食卓に戻ってくる。6月に瓶へ手を入れた記憶が、季節を超えて味になる——そのじんわりとした喜びが、梅仕事の醍醐味だ。
「どの梅にするか」を楽しむ季節
青梅か、完熟梅か。大粒の南高梅か、小粒の甲州小梅か。傷がなくハリのある実を手に取りながら、今年は何を仕込もうかと考える時間は、旬の食材が与えてくれる贅沢のひとつだ。
梅は万葉集にも詠まれ、日本人に古くから親しまれてきた果実だ。香りの強い完熟梅を梅干しに、きりりとした青梅を梅酒に——同じ木の実が段階によって全く違う顔を見せるのは、梅だけが持つ面白さだ。6月下旬、棚の青い実が黄色くなる前に、今年の梅仕事を始めてみてほしい。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養データ:日本食品標準成分表(八訂)/摂取基準:日本人の食事摂取基準/生産量:農林水産省 令和5年産作物統計