6月30日、一年の折り返しに日本各地の神社で「夏越の祓(なごしのはらえ)」がおこなわれる。茅(ちがや)で編んだ大きな輪をくぐり、正月から積み重なった半年分の穢れを祓い清める神事だ。この日に京都の人々が食べてきたのが、白いういろうを三角に切り、上にゆであずき(小豆)をのせた菓子、「水無月(みなづき)」である。

三角の形は「氷」をかたどったとされる。平安の宮廷では夏に氷室から切り出した氷を口にして暑気を祓う習わしがあったが、庶民にとって氷は高嶺の花だった。米粉と砂糖で作るういろうを三角に整えて氷に見立て、邪気を払うとされる赤いあずきを散らした——それが水無月の始まりと伝えられる。氷の白さとあずきの赤が、夏越しの祓いの色として長く愛されてきた。

ういろう——涼を運ぶ「氷」の役わり

水無月のベースとなるういろうは、米粉と砂糖からなるシンプルな和菓子だ。100gあたりのエネルギーは181kcal(1切れの目安50gで約90kcal)、炭水化物は100gあたり44.2g(推計値)で、そのうち甘みのもとになるしょ糖が約26.7g(推計値)を占める。食物繊維は0.1g(推計値)と少ない。1切れはエネルギーの面では軽く、甘みと涼やかな三角の形を楽しむ菓子で、栄養の主役はあずきに譲る形といえる。なお、ういろうの成分は成分表に推計値として収録されたもので、製品によって異なる。

あずき——赤い粒に宿る「祓い」のイメージ

水無月の赤は、ただの縁起色ではない厚みを持つ。ゆであずきは100gあたりの不溶性食物繊維が11.3gと目を引く。不溶性食物繊維は水分を吸って便をやわらかく大きくし、腸を刺激して便通を整えるとされ、不要なものを巻き込んで排出を促すともいわれる。

「半年の穢れを祓う」という神事の言葉と、腸の調子を整えるという食物繊維のはたらきは、もちろん別の話だ。それでも両者がふと響き合って聞こえるのは、言葉のあやとしての面白さだろう。先人があずきを選んだのは赤い色を魔除けとしたためと伝えられ、栄養を計ってのことではない。※ここで紹介する栄養素の一般的な働きは、特定の食品の効果・効能を示すものではありません。

たんぱく質も100gあたり8.6g(日本人の食事摂取基準における女性30〜49歳の推奨量50g/日の約17%)と、豆らしい充実ぶりだ。素朴な菓子の一片に、豆ならではの栄養が静かに添えられている。

6月30日の食べかた——祓いを味わう

水無月は夏越の祓の日、6月30日に食べるのが習わしだ。ういろうもあずきも砂糖で甘みをつけた菓子であることに変わりはないので、食べすぎには気をつけながら、この日ならではの一切れをゆっくり味わいたい。

自宅でゆでるあずきを選ぶなら、粒にふくらみがあり、皮にキズやシワのないものを良品の目安にするとよい。夏の高温期は購入後、冷暗所か冷蔵庫で保管する。新豆は例年9〜10月以降に出回るため、初夏の水無月に使うのは前年の豆になるが、適切に保管されたものなら十分においしく炊ける。

伝統の知恵を、一枚の三角に

夏越の祓とういろう・あずきの取り合わせは、宮廷の氷の記憶から庶民の智恵へと受け継がれてきた食文化だ。縁起・色・形と、それを支える素材の実質が一枚の菓子に重なっている——そう気づくと、6月30日の一切れがすこし違って見えてくる。

米粉のういろうと、赤いあずき。素材はごく素朴でも、半年の節目に込められた願いが、一枚の三角に同居している。今年の6月30日、その一切れを手に取ってみてはどうだろう。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準