この研究は、アイルランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Politics and Governance

ライセンス: CC BY 確認元: OpenAlex

見えにくい取り組みの成果を測る

コミュニティガーデン(地域の共同菜園)、住民が一緒に料理して食べる地域の台所、余った食品を必要な人へ回す活動など、食をみんなで分かち合う取り組みは世界各地の都市に広がっています。論文はこれらを「フードシェアリング・イニシアチブ」と呼んでいます。著者らによると、こうした取り組みは食品ロスの削減、社会的なつながり、食料の確保といった目標を掲げることが多い一方で、その成果はほとんど記録されておらず、自治体の食に関する政策からは見えにくい存在になっています。

これまでの研究は、個々の団体や、栽培・調理・再分配といった特定の活動に焦点を当てたものが中心でした。そこで研究チームは、一つの自治体の中にあるあらゆる種類の取り組みが、全体としてどのような持続可能性への貢献をしているのかを推計する方法を考案し、アイルランドのダブリン市に当てはめました。

地図づくりとアンケートを組み合わせた推計方法

まず研究チームは、ウェブサイトやSNSなどインターネット上に情報がある取り組みを、大規模言語モデルを用いた半自動の手法で探し出し、活動内容や分かち合いの方法で分類して地図上に位置づけました。候補は人の手で確認され、ダブリン市内で83の取り組みが特定されました。ネット上に専用の情報を持たない取り組みは含まれないため、著者らはこの数を控えめな見積もりとしています。

次に、各団体にメールでアンケートを送り、規模とともに、年間の実績を尋ねました。共通の項目は教育的なイベントの参加者数とボランティア数で、加えて調理・食事の団体には共有した食事の数、栽培の団体には生産した食料の量、再分配の団体には再分配の実績を尋ねています。大きな団体の回答が平均を押し上げすぎないよう規模に応じた重み付けをしたうえで1団体あたりの平均を求め、市内の該当する団体数を掛けて市全体の値を推計しました。

回答したのは14団体で、回答率は17%でした。著者らは、少ない回答から市全体へ拡大して推計することによる不確かさや、扱える指標が限られている点を限界として認めつつも、成果のデータがまったくない状態に比べれば大きな前進だと述べています。

主な結果:数字に表れた貢献と地域の偏り

推計によると、ダブリン市内の取り組み全体で、調理・食事の活動は年間約21万7,802食を提供し、栽培の活動は年間約17.49トンの食料を生み出しています。再分配の活動については、推計結果の表では温室効果ガス(二酸化炭素換算)の回避量として年間9,158.1トン、本文では廃棄を免れる食品の量として同じ数値が示されています。さらに、イベント参加者は年間約1万6,517人、関わるボランティアは約830人と推計されました。著者らは、ボランティアこそがこれらの取り組みの原動力だとしています。

地図からは、取り組みが市の中心部、特に北側に集中し、郊外の広い範囲には確認できる取り組みがないことが分かりました。地域の貧困度を示す統計と重ね合わせると、多くの取り組みが社会経済的に不利な地域やその近くにある一方で、北部や西部の郊外には手薄な地域が残り、最も困難を抱える地域に直接立地する取り組みは少ないことも示されました。活動の方法としては、無償で提供する形が89.2%と大半を占めていました。

また、人口あたりの取り組み数は、ダブリンが約7,141人に1つで、同様の手法を適用したオランダのユトレヒト(約4,255人に1つ)より少なく、著者らはダブリンには提供の不足があると指摘しています。ユトレヒトと同じ水準にするには56の取り組みが追加で必要になる計算ですが、著者らは数だけでなく地域ごとのニーズを踏まえるべきだとしています。

「見えない貢献」を政策の場へ

この研究は、これまで自治体から見えていなかった食のシェアの成果を、限られたデータからでも市全体の規模で示せることを明らかにしました。著者らは、こうしたデータが不足地域の把握や資源の配分、食品ロス削減などの目標への貢献の確認に役立ちうると述べる一方、可視化するだけでは意思決定に反映される保証はないとも強調しています。

ダブリンには食に専任で取り組む担当者や協議の場がなく、成果報告を求める仕組みもありません。著者らは、すべての食に関わる団体がデータを集めやすくなる仕組みと、そのデータを政策判断にきちんと生かす体制が必要だと訴えています。食を分かち合う小さな活動の積み重ねが、都市の食のあり方を考えるうえで無視できない存在であることを伝える研究です。

著者:Anna Ray Davies(Geography, Trinity College Dublin, Ireland)、Jennifer Lyons(Geography, Trinity College Dublin, Ireland)、Daisy Gallagher(Geography, Trinity College Dublin, Ireland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anna Ray Davies, Jennifer Lyons, Daisy Gallagher. Estimating the Hidden Sustainability Contributions From Food Sharing Initiatives at the Municipal Scale. Politics and Governance 2026-10-08. DOI: 10.17645/pag.12401. 原著ライセンス:CC BY.