著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

口の中には700を超える種類の細菌がすみ、歯や粘膜の表面で「バイオフィルム」と呼ばれる細菌の集合体を作っています。細菌どうしは栄養をやり取りしたり競い合ったりしながら複雑なネットワークを形づくっており、このバランスが崩れると歯周病やむし歯などにつながると考えられています。また、口の細菌は動脈硬化など全身の病気との関連も指摘されています。

研究チームは、抗菌物質が細菌をまとめて抑えるのではなく、病気に関わる一部の細菌だけを選んで抑えられるのが理想だと考えました。果物や野菜に含まれるポリフェノールの一種「フラボノール」は、これまで単一の細菌を培養した実験などで抗菌作用が報告されてきましたが、人の口の中にある本来の複雑なバイオフィルムに対する効果を調べた研究はほとんどありません。そこで著者らは、フラボノールが複雑なバイオフィルムの中でどの種類の細菌に影響するのかを調べることを目的としました。

どのように調べたか

研究チームは、口の表面からはがれて唾液中に出てくるバイオフィルムの塊を利用しました。こうした塊は口の表面に付いたり離れたりを繰り返しており、人工的に作ったバイオフィルムよりも口の中の実際の状態に近いと考えられています。健康状態が良好で、過去3か月に抗生物質を使っておらず、喫煙などのたばこ使用がない10人から、24時間口腔ケアを控えてもらったうえで唾液を集めました。

集めたバイオフィルムに、ミリセチン、ケルセチン、ケンペロールという3種類のフラボノールを、それぞれ400マイクロモーラーと1ミリモーラーの濃度で加え、酸素のない条件で37℃、4時間置きました。その後、細菌の「16S rRNA」という分子を遺伝子解析の技術で測定しました。16S rRNAは細菌の種類ごとに配列が異なり、細胞が活発に働いているときに多く作られるため、どの細菌の活動が変化したかを見分ける手がかりになります。さらに、別の6人から集めたサンプルでも同じ実験を行い、結果が再現されるかを確かめました。

主な結果

サンプル全体のRNA量は、ケンペロールとケルセチンではわずかな減少にとどまり、ミリセチンは1ミリモーラーで大きく減少させました。一方で、細菌群集の多様性を示す指標への影響は小さく、群集全体の構成が大きく崩れることはなかったと報告されています。3種類のフラボノールは、おおむね同じ種類の細菌に影響しましたが、影響の大きさは異なり、ミリセチンが最も大きな効果を示しました。

注目されるのは、どの細菌が影響を受けたかです。動脈硬化との関連が広く報告されている口の細菌17種類のうち、今回の参加者から十分に検出され検討できたのは7種類で、そのうち4種類で16S rRNAの量が1種類以上のフラボノールによって低下し、増えたものはありませんでした。歯周病の重症度と関連するパルビモナス・ミクラや、歯周膿瘍との関連が強いストレプトコッカス・アンギノーサス、ストレプトコッカス・インターメディウスでも低下が見られました。反対に、2つの実験で共通して増加が確認された6種類の細菌には口の病気と関連するものはなく、ストレプトコッカス・サリバリウスやナイセリア・ムコーサなど、健康と結びつけられている細菌が含まれていました。

研究から分かること

著者らは、植物由来のフラボノールが、細菌全体の活動を大きく乱さずに、病気と関連する口の細菌を選択的に抑える物質の候補になりうると結論づけています。

ただし、測定したのは細菌の活動の指標であるrRNAの相対的な量で、細菌が死んだり減ったりしたことを直接示すものではありません。参加者の多くは歯周病がなく、検討できた病原菌は一部に限られました。用いたのは精製したフラボノールで、試験した濃度が普段の食事で達するとは限らず、作用の仕組みもまだ分かっていません。著者らも、口の外で得られたこの結果が実際の口の中で再現されるか、どの程度の摂取量で起こるかは今後確かめる必要があるとしています。今回の研究は、身近な食品に含まれる成分が口の細菌群集の中で特定の細菌に選択的に働く可能性を、人のバイオフィルムを使って示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Michaela Tamamidis(Department of Oral Medicine and Diagnostic Sciences, College of Dentistry, University of Illinois Chicago, 801 S. Paulina St., Chicago, IL 60612, USA)、Anthony Lopez(Department of Oral Medicine and Diagnostic Sciences, College of Dentistry, University of Illinois Chicago, 801 S. Paulina St., Chicago, IL 60612, USA)、Wei Li(Department of Pediatric Dentistry, College of Dentistry, University of Illinois Chicago, 801 S. Paulina St., Chicago, IL 60612, USA)、Stefan J. Green(Genomics and Microbiome Core Facility, Rush University, Chicago, IL 60612, USA)、Christine Wu(Department of Pediatric Dentistry, College of Dentistry, University of Illinois Chicago, 801 S. Paulina St., Chicago, IL 60612, USA)、Guy R. Adami(Department of Oral Medicine and Diagnostic Sciences, College of Dentistry, University of Illinois Chicago, 801 S. Paulina St., Chicago, IL 60612, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Michaela Tamamidis, Anthony Lopez, Wei Li, et al. Targeting of Oral Bacterial Taxa Linked to Disease by Flavonols. Nutrients 2026-09-23. DOI: 10.3390/nu18193123. 原著ライセンス:CC BY.