著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的:長期熟成の変化を連続した年数でとらえる

プーアル生茶は、中国雲南省の大葉種の茶葉を天日で乾かし、蒸して固めた緊圧茶です。適切な環境で保管すると成分がゆっくり変化し続け、「年を経るほど香りが良くなる」と言われます。そのため飲用だけでなく、収集や投資の対象にもなっています。

これまでの研究は、保管1〜10年程度の試料を扱ったものが中心でした。10年を超える長期熟成、特に20年以上の試料を体系的に調べた例は限られています。また、研究ごとに原料の産地、製法、保管条件が異なり、比較しにくいという課題もありました。さらに、味に関わる成分と香りの成分を別々に扱う研究が多く、両者がどう連動して変わるのかは十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、同じ産地で作られ、同じ条件で保管された1〜22年物の生茶を連続して並べました。熟成段階ごとの品質の特徴をとらえること、年数を見分ける手がかりになる成分を絞り込むこと、味の成分と香りの成分の関係を明らかにすることを目指しました。

何を調べたか

試料は、雲南省の易武で2002〜2023年に作られた生茶の餅茶です。いずれも同じ倉庫で、気温およそ20〜30℃、相対湿度40〜50%の乾燥した環境に保管されていました。この研究は1つの茶を22年間追跡したものではありません。製造年の異なる茶を同時に比べることで、保管年数による違いを調べています。

まず、訓練を受けた5人の専門評価者が、試料名を伏せた状態で外観・香り・水色・味・茶殻を評価しました。続いて、カテキン類を含む茶ポリフェノール、遊離アミノ酸(うま味や新鮮さに関わる)、可溶性糖、熱水で溶け出す成分の総量などを測定しました。テアフラビン、テアルビジン、テアブラウニンといった、ポリフェノールが酸化・重合してできる色素系の成分も測っています。

香りについては、茶から立ちのぼる揮発性成分を集めて分析しました。各成分がどれだけ香りに効いているかを、量と「においを感じ始める濃度」から相対的に見積もる指標も用いています。なお、揮発性成分の量は1種類の内部標準を基準にした半定量値です。著者らは、この値は試料どうしの比較に使うもので、絶対量を示すものではないと述べています。

主な結果:味・成分・香りの段階的な変化

官能評価では、保管が長くなるにつれて、力強く新鮮な味わいから、熟成香のあるまろやかな味わいへ移っていく傾向が見られました。1〜3年物は苦味と渋味がはっきりしていました。4〜10年物では甘味が現れ始め、8年以上の試料では熟成香が徐々に表れました。15年物は甘くまろやかで渋味が抑えられていた一方、17〜22年物は味がやや平板になり、まろやかさも弱まったと報告されています。総合点が最も高かったのは7年物(92点)で、1年物(91.5点)が続きました。

成分の面では、遊離アミノ酸が1〜4年物の4.70〜5.05%から、14〜18年物では約1%まで減少しました。茶ポリフェノールも全体として減り、カテキン類のうちEGCやECGなどは特にはっきり低下しました。反対に、テアブラウニンは1年物の0.62%から22年物の1.49%へ増加しました。テアフラビン、没食子酸、ミリセチン(フラボノイドの一種)も、保管後期の試料で多くなっていました。可溶性糖は14年物で最も高く(5.60%)、22年物では1.97%まで下がりました。

24項目の成分データで試料をグループ分けすると、1〜4年、6〜10年、14〜18年、19〜22年の4つのまとまりに分かれました。研究チームは、この区分が官能評価の傾向とも一致したとしています。また、前半2グループと後半2グループの間には大きな違いがあった一方、14〜18年と19〜22年の間で有意に違った成分は1つだけでした。著者らはここから、14年を超えると主要な成分が比較的安定した状態に近づくと解釈しています。

香りの分析では、全試料から523種類の揮発性成分が見つかり、そのうち145種類が香りに寄与する成分とされました。さらに39種類が主要な香気成分として選ばれました。このうちβ-イオノン(スミレのような花の香り)と(E)-2-ノネナール(木のような香り)は、1〜22年のどの段階でも香りへの寄与が大きく、全期間を通じて香りの「骨格」になっていると報告されています。

主要な香気成分で分類すると、試料は1〜10年、14〜19年、20〜22年の3段階に分かれました。初期は花・スパイス・果実や木の香りが中心で、中後期には樹脂やろうのような熟成した香りが加わりました。さらに高年数になると、ハーブや木、樟脳、焙煎、熟成の香りが共存する複雑な構成になったとされます。著者らは、生茶の香りは単純に弱まっていくのではなく、組み替えられながら複雑になっていく過程だとまとめています。

味の成分と香りの成分の関係も調べられました。遊離アミノ酸は、1-オクテン-3-オールやフェニルエチルアルコールなど一部の香気成分と正の相関を示し、ミリセチンやテアフラビンとは負の相関を示しました。ここで示されたのは相関関係です。そのうえで研究チームは、遊離アミノ酸が香りの形成と味の成分の変化を結びつける重要な指標になりうると示唆しています。

この研究が示すこと

この研究は、産地と保管条件をそろえた1〜22年の連続した試料を使い、プーアル生茶の熟成が一方向の変化ではなく、いくつかの段階を経て進むことを、味・成分・香りの3つの面から示しました。その中で、7年物の官能評価が最も高く、保管がさらに長くなると味が平板になる傾向も報告されています。

著者らは、年数とともに一定の変化を示す成分を手がかりにすることで、熟成段階の区分、品質管理、保管年数の判別に役立つデータの基盤になると位置づけています。

原著論文の著者・所属:Zhou M(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Chen X(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Ruan D(Yunnan Liuda Chashan Tea Industry Co., Ltd., Kunming 650224, China.)、Fang X(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Gao J(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Cai C(Yunnan Liuda Chashan Tea Industry Co., Ltd., Kunming 650224, China.)、Wu Y(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Lu S(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Wang Z(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Deng X(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)、Wang B(College of Tea Science, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhou M, Chen X, Ruan D, et al. Quality Evolution of Pu-Erh Raw Tea over 1-22 Years of Aging. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-27. DOI: 10.3390/foods15193448. 原著ライセンス:CC BY.