6月に入り、日差しが水面を白く弾くようになると、漁港の朝市に丸々と太ったマアジ(皮つき・生)が並びはじめる。アジといえば一年中手に入る身近な魚だが、初夏から夏にかけてのこの時期は、餌をたっぷり食べて脂がのりはじめる季節。刺身にひいた身が光り、塩を振って焼いただけでも箸が止まらない——そんな「今いちばんうまい」タイミングが、ちょうど今だ。

青背の脂に何が詰まっているか

アジは青背魚の代表格で、DHA(570mg/100g)とEPA(300mg/100g)を含む。これらは不飽和脂肪酸の一種で、体内ではつくりにくい成分とされる。脂質全体は100gあたり4.5gとそれほど多くなく、エネルギーは112kcal。「脂の魚」というイメージより、むしろたんぱく質が19.7gとしっかり入っているのがアジの真骨頂だ。中1尾(目安約150g)で換算すると、たんぱく質は約30gになる計算で、日本人の食事摂取基準で示された女性(30〜49歳)の1日推奨量50gの約60%をひと皿で補える。

意外な主役はセレン

アジで特筆したいのが、セレンという微量ミネラルの多さだ。可食部100gあたり46µgが含まれており、これは女性(30〜49歳)の1日推奨量25µgの184%にあたる。この割合は推奨量に対する値であり、耐容上限量(過剰摂取の上限の目安)とは別の基準だ。セレンには耐容上限量が設定されており、過剰に摂りすぎると脱毛や爪の変形、胃腸障害といった過剰症が起こることがある。ただし、食事から通常の量を食べる分には心配は少なく、サプリメントで大量に補うような場合に注意が必要だ。

セレンは肝臓や腎臓に存在する微量ミネラルで、体内で抗酸化に関わる酵素の材料として働く。動物性食品に多い栄養素で、魚介類はよい供給源のひとつとされている。アジのような青魚を日常の食卓に取り入れることは、セレンを食事から自然に摂る方法のひとつといえる。

今が旬だから試したい食べ方

脂がのりはじめたアジは、シンプルな調理がいちばんその良さを引き出す。鮮度のよいものはなんといっても刺身か「なめろう」だ。みそ・しょうが・ねぎ・大葉と一緒にたたいて混ぜるなめろうは、磯の香りと薬味が重なって、冷たいご飯にのせても、そのままつまんでも旨い。

  • 塩焼き:腹に塩を振って魚焼きグリルへ。皮がパリッと焼けたら、大根おろしとすだちを添えるだけで夏の一皿になる。
  • なめろう:三枚におろした身をまな板の上でたたき、みそと薬味を混ぜ込む。まとめて作っておけばそのまま食べても、アジフライの下地にしても楽しめる。
  • 干物(開き):一夜干しにすれば旨みが凝縮される。6月の乾いた朝風が干物づくりにもちょうどよい季節だ。

毎日の食卓に「今のアジ」を

1尾数百円で手に入り、小1尾(約50g・小ぶりな1尾の目安)でも良質なたんぱく質が約10g摂れる。特別な食材ではないのに、栄養の密度は決して低くない。旬の素材を旬のうちに、シンプルに食べる——アジはその喜びを素直に教えてくれる魚だ。今週の夕食に、一尾丸ごとのアジを迷わず手に取ってみてほしい。

栄養素の基準値は日本人の食事摂取基準(女性30〜49歳)、食品成分値は日本食品標準成分表(八訂)による。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準文部科学省 食品成分データベース

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。