細胞が分裂するたびに、体は設計図のコピーを作る。その材料の一つが「ヌクレオチド」と呼ばれる成分です。DNAやRNAを構成する基本単位であり、腸の粘膜や免疫細胞のように入れ替わりの速い組織では特に需要が高いとされます。体内でも合成されますが、食事からも取り込まれる——そうした「体の外から補う」ヌクレオチドを「外来性ヌクレオチド」と呼びます。

2026年6月に学術誌フーズに掲載された研究は、この分野の過去25年分・710本の論文を一括して分析したものです。「どの国が・どんなテーマで研究してきたか」を俯瞰し、今後の課題を整理するという、研究地図を描くような仕事です。

25年で見えてきたこと、見えていないこと

分析の結果、2017年以降に論文数が急増していることがわかりました。研究の関心は三つの大きな流れに分けられます。①細胞や分子レベルの基礎的な仕組み、②腸の健康・免疫・代謝などに関連する栄養素を含む食品としての関与、③養殖や動物栄養、乳児栄養といった実用的な応用——この三層構造が浮かび上がったといいます。

養殖・畜産の分野では、魚や家畜の成長、腸の形態、免疫応答などへの関与が報告されてきました。ヒトを対象にした研究では、乳児栄養、腸と免疫の健康、代謝の調節、そして「健康な加齢」がテーマとして浮上しています。

ただし、この研究が強調するのは「わかってきたこと」と同じくらい「まだわかっていないこと」の大きさです。どの化合物が・どのくらいの量で・どんな集団に・長期的にどう作用するかは、まだ十分に解明されていません。論文の結論は「有望だが、有効な投与量、体内への吸収のされ方、長期的な安全性、対象集団ごとの効果の違いを今後さらに明らかにする必要がある」というものです。期待を煽るのではなく、課題を正直に列挙する——25年・710本の蓄積が出した答えとしては、むしろその誠実さが際立ちます。

日常の食卓とヌクレオチド——レバーやイワシに豊富な栄養素との接点

ヌクレオチドは細胞を持つ食品には広く含まれており、特に細胞密度の高い内臓系の食品に多く存在するとされます。日本食品標準成分表(八訂)にはヌクレオチド含有量そのものの数値は収載されていませんが、ヌクレオチドの構成要素と深く関わるたんぱく質・B群ビタミン・葉酸などについては詳細な成分値が記載されており、豚レバー鶏レバーまいわし(生干し)はそうした栄養素が凝縮された食品として食卓になじみ深い存在です。

肝臓は、腸で吸収された栄養素の多くが集まり、体に必要な物質へ変換・貯蔵される器官です。その臓器自体が高密度な細胞で構成されているため、様々な栄養素を濃縮して含みます。豚レバー100gにはたんぱく質が20.4g(女性30〜49歳の推奨量50g/日の41%)含まれ、ビタミンB2は3.6mg(同・推奨量1.2mg/日の300%)、葉酸は810µg(同・推奨量240µg/日の338%)にのぼります。ただし、レチノール(ビタミンA)は100gあたり13,000µgと、日本人の食事摂取基準で定められた耐容上限量(2,700µgRAE/日・18歳以上女性の場合。過剰摂取で健康障害が生じるリスクがあるとして設定された上限)の約4.8倍にあたる量が含まれます。レバーは少量ずつ楽しむのが現実的であり、ビタミンAの過剰摂取には注意が必要です。また、豚・鶏ともに生レバーの飲食店での生食提供は食品衛生法上禁止されており、家庭で調理する際も中心部まで十分に加熱することが必要です。特に妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は食中毒リスクへの配慮が求められます。

鶏レバーも同様に、100gあたりのレチノールが14,000µgと耐容上限量(2,700µgRAE/日)の約5.2倍にあたります。焼きとり1串(約30g)でも約4,200µgRAEと耐容上限量を上回るため、量だけでなく食べる頻度にも注意が必要です。葉酸は100gあたり1,300µgと高い値ですが、食品由来の天然型葉酸については耐容上限量の対象がサプリメントや強化食品由来の合成型に限られるため、食品として摂る分には適用が異なります。

まいわしの生干しは、たんぱく質を100gあたり20.6g含み、ビタミンB12は100gあたり16µgと豊富です(1食あたりの可食部が50〜70g程度の場合は約8〜11µg)。たんぱく質やビタミンB12は細胞の合成・代謝を支える栄養素であり、ヌクレオチドの構成・再利用が活発に行われる腸や免疫の組織との関わりという観点からも、食卓での存在感は大きいです。また、100gあたりn-3系多価不飽和脂肪酸を3.12g含みます。1食あたりの可食部は1尾あたり50〜70g程度になることも多く、その場合は約1.6〜2.2gとなり、女性30〜49歳の目安量1.7g/日をおおむね満たす〜上回る量が摂取できます(100g摂取した場合は目安量を上回ります)。この種類の脂肪酸は体内で十分に合成できないため食事から摂ることが重要とされている必須脂肪酸です。なお、生干しは十分に加熱して食べることが前提であり、妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方はリステリアや寄生虫のリスクに配慮し、中心部までしっかり加熱したものを選ぶことが望ましいです。

※本記事に登場する食品の栄養素について、腸や免疫の機能への特定の効果を示すものではありません。

「期待しすぎず、知っておく」という距離感

今回の研究が示した地図は、ヌクレオチドの可能性と限界の両方を正直に映しています。腸や免疫への関与を示す報告は積み重なっていますが、「誰が・どの量で・どのくらい安全か」は今後の研究が答えを出す段階です。機能性食品やサプリメントの成分として目にする機会は増えているかもしれませんが、現時点では「可能性が示唆されている成分」として冷静に受け止めるのが適切でしょう。

一方で、ヌクレオチドに関連する栄養素を豊富に含む食品は私たちの日常の食卓にすでにあります。レバーや魚介など、様々な栄養素をまとめて供給してくれる食品を偏りなく取り入れることが、結局は研究の「特定の成分だけを見ていてはわからない」という限界への、最も手堅い向き合い方かもしれません。ただし、レバーはビタミンAの過剰摂取リスクがあるため摂取量に注意が必要であり、特に妊婦の方はレバーの摂取を控えることを医師・管理栄養士等の専門家にご相談ください。研究が「まだ途中」と言っているうちは、食事全体のバランスを信頼するのが一番の知恵です。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Exogenous Nucleotides as Functional Food Supplements: A Bibliometric Analysis of Global Research Trends (2000–2025)(フーズ(2026-06-17))

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」(厚生労働省)