6月も半ばを過ぎると、青空の下に並ぶ野菜の顔ぶれがすっかり夏めいてくる。そのなかで、存在感は薄いけれど確かに出番を終えようとしているのが生のグリーンピースだ。旬は春から初夏。6月はまさに名残の季節であり、生のさやで出回る最後のひと波を逃すと、次の出会いはずっと先になる。

スーパーの棚では地味に見えるかもしれないが、この数字が印象を覆す。可食部100gあたりのモリブデン含有量は65µg——『日本人の食事摂取基準』が定める女性(30〜49歳)の1日推奨量25µgの、実に260%に相当する。ただしこれは100gを食べた場合の数値だ。グリーンピース10粒(むき身・約10g)ほどの一般的な食べ方では摂取量は約6.5µgにとどまり、推奨量の約26%相当となる。

「モリブデン」って、何の栄養素?

モリブデンは、日常会話ではあまり登場しないミネラルの一つだ。肝臓などに存在する微量ミネラルで、体内にわずかしかないが、いくつかの酸化還元酵素の補助因子として働く——つまり、酵素が正しく機能するための「助け役」になる成分だ。日常の食事で不足することは少ないとされるが、だからこそ含有量の多い食品はほとんど知られていない。グリーンピースがその一つであることは、数値を見て初めて気づく人も少なくない。

なお、この数値は1日の推奨量に対する割合であり、耐容上限量(過剰摂取を避けるための上限値)を基準にしたものではない。モリブデンには耐容上限量が設定されており、過剰に摂り続けると関節痛など痛風に似た症状が出ることが知られている。グリーンピース10粒(むき身・約10g)ほどを食べる一般的な食べ方では、摂取量は約6.5µgにとどまり、過剰になる心配はない。炊き込みごはんにたっぷり使うときに初めて、260%相当の摂取量に近づく数字だ。

豆ならではの、栄養の厚み

グリーンピースは正式にはマメ科エンドウ属の実エンドウ。中央アジアから中近東が原産とされ、関西で親しまれる「うすいえんどう」もこの仲間だ。野菜に分類されながら豆の顔も持つため、栄養の密度が野菜としては厚い。たんぱく質は、一般的な使用量10〜30g程度では1〜2g程度にとどまるため、主なたんぱく質源というよりは「積み重ねていく一品」として位置づけるのが実態に近い。可食部100gあたりでは6.9gと、野菜のなかでは多い部類に入る。

不溶性食物繊維は、10粒(約10g)の目安量では約0.7g。炊き込みごはんやスープにまとまった量を使えば、可食部100gあたり7.1g(食物繊維総量は7.7g)と増えていく。不溶性食物繊維は水分を吸って便をやわらかくし、腸を刺激して便通をスムーズにする働きがある。少量のつけ合わせというよりは、まとまった量を使うほうが、豆本来の実力が食卓に届く。

今だけのホクホクを、食卓に

生のグリーンピースが持つ最大の魅力は、缶詰や冷凍では再現しにくいホクホクした食感と、さやに宿るグルタミン酸の甘い香りにある。炊き込みごはんはその両方を生かす定番で、塩と酒だけのシンプルな味つけが豆の風味を邪魔しない。炊き上がりに豆を加えて蒸らせば、色よく仕上がる。

買ってきたらすぐに使い切るのが理想だが、さやごと冷凍しておけば約1か月は風味を保てる。解凍は不要で、凍ったまま鍋に入れればよい。冷蔵なら10日ほどが目安で、乾燥させてはいけない——保存のポイントはそこだけだ。

名残の豆に、意外な顔があった

春から初夏の短い間だけ生で出回るグリーンピース。そのひと粒に、普段ほとんど意識されないミネラル「モリブデン」が豊富に詰まっている——この事実は、地味な豆への見方を少し変えてくれる。旬の名残を惜しみながら、今年最後の炊き込みごはんを一鍋炊いてみるのも悪くない。

数値は日本食品標準成分表(八訂)に基づく。摂取基準は『日本人の食事摂取基準』を参照。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。