著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
免疫が低下すると、ウイルス感染が重症化しやすくなる。「何を食べることが腸を経由して免疫に関わるのか」という問いに対し、2026年6月、一つの興味深い報告が学術誌ニュートリエンツに掲載された。
マウス実験で見えてきた「腸-免疫の回路」
免疫を抑えた状態のマウスにやまのいもを摂取させ、インフルエンザウイルスを投与したところ、肺内のウイルス量が低下し、肺の炎症反応が和らいだことが報告されている。
この研究で注目されるのは、「なぜそうなったか」の経路を同時に調べた点だ。研究チームはその仕組みを「腸内細菌→短鎖脂肪酸→免疫細胞」という流れで説明している。
短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維などを分解するときに生み出す物質の総称で、腸の働きや免疫の調整に関わるとされる。やまのいもを摂取したマウスでは、腸内細菌のバランスが変化し、この短鎖脂肪酸の量が増えたと報告されている。さらに、短鎖脂肪酸を受け取る受容体(細胞の表面にある「受け口」のようなもの)を持たないマウスでは、やまのいもの免疫への影響が失われたことも確認された。これは、短鎖脂肪酸がこの経路の重要な中継点であることを強く示す結果だと研究者たちは述べている。
免疫細胞の面では、脾臓(ひぞう)と胸腺(きょうせん)の働きの低下が抑えられ、B細胞・T細胞といった免疫を担う細胞の割合が回復傾向を示したことも報告された。腸の内壁を守るタンパク質(腸のバリア機能に関わるとされる成分)のレベルも上昇が確認されている。
ただし、これはあくまでも「免疫を人工的に抑制したマウス」を対象にした動物実験の段階だ。ヒトでも同じ効果があるかどうかは、今後の研究を待つ必要がある。
やまのいも類の食物繊維と、腸活との接点
今回の研究の主役は食物繊維だ。腸内細菌が短鎖脂肪酸を生み出すには、その「材料」となる食物繊維が必要とされており、やまのいもに含まれる成分がその供給に関わった可能性が考えられる。
やまのいも類の一種であるじねんじょ(生)を例にとると、可食部100gあたりの食物繊維は2g(水溶性0.6g・不溶性1.4g)で、エネルギーは118kcalだ。一本まるごとを使う場合の目安として、可食部200g程度を想定すると食物繊維は約4gとなる計算だ(重量はあくまで目安であり、実際の重量は個体により異なる)。とろろとして一度に全量食べることは少ないかもしれないが、日々の食卓に少しずつ取り入れる食材として位置づけることができる。
食卓に置いてみる、ささやかな理由
腸内細菌と免疫の関係は、近年の栄養科学で最も活発に研究されている領域の一つだ。「腸活」という言葉はすっかり日常語になったが、それを支える仕組みの解明はまだ途上にある。今回の研究は、その「腸と免疫をつなぐ回路」の一端を具体的な食品と経路で示したという点で、興味深い一石だといえる。
もちろん、一つの食品で免疫が「強化される」と断言できる段階ではない。研究はマウスを対象にしたものであり、ヒトへの応用は今後の課題だ。それでも、食物繊維を含む食材を日常的に取り入れ、腸内環境を整えるという方向性は、日本人の食事摂取基準が食物繊維の十分な摂取を推奨していることとも重なる。
とろろご飯、すり下ろしてみそ汁に加える、山かけにする。やまのいも類を食卓に載せる方法はいくつもある。「腸を通じて免疫に届くかもしれない」という可能性を念頭に置きながら、日々の食事の多様性を意識することが、研究を日常に橋渡しする一歩になるだろう。食物繊維はやまのいも類だけでなく、野菜・豆類・きのこ・海藻など幅広い食品に含まれており、さまざまな食材をバランスよく取り入れることが、腸内環境を支える土台となる。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):Yam Protects Immunocompromised Mice from Influenza Infection via the Gut-SCFA-GPCR-Immune Axis(ニュートリエンツ(2026-06-02))
著者:Qi Li(Key Laboratory of Traditional Chinese Medicine Classical Theory, Ministry of Education, Shandong University of Traditional Chinese Medicine, Jinan 250355, China)、Xinyan Qu(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Menglin Li(Key Laboratory of Traditional Chinese Medicine Classical Theory, Ministry of Education, Shandong University of Traditional Chinese Medicine, Jinan 250355, China)、Yingying Song(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Qi Xu(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Quanbo Wang(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Hongjing Dong(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Xiao Wang(Shandong Analysis and Test Center, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan 250353, China)、Q Liu(Key Laboratory of Traditional Chinese Medicine Classical Theory, Ministry of Education, Shandong University of Traditional Chinese Medicine, Jinan 250355, China)