この研究は、チリ、スウェーデンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
プロポリスの成分と抗菌作用を調べる
研究チームは、チリの半乾燥地域であるコキンボ地方のプロポリスについて、生鮮青果物に関わる病原性細菌や、収穫後の腐敗を引き起こすカビへの作用を調べました。プロポリスは、ミツバチが植物由来の樹脂などを集めてつくる物質です。この研究では、由来する植物や成分の違いを調べるとともに、培養条件だけでなく、レタスやトマトの組織でも抗菌作用を確かめることを目的としました。
著者らは、地域内の4か所の養蜂場から採取したプロポリスをエタノールで抽出しました。含まれる花粉や植物組織を顕微鏡で観察し、植物に広く含まれる成分群であるフェノール類の総量と、個々の成分を分析しました。その結果、試料ごとに植物由来の特徴や成分構成が異なり、フェノール類の総量が最も多い抽出物と、後の試験で強い抗菌作用を示した抽出物は必ずしも一致しませんでした。
細菌への作用は種類や付着場所で異なった
培養試験で著者らが報告した抗菌作用は、リステリア・モノサイトゲネスと黄色ブドウ球菌に対して強く、大腸菌やサルモネラに対しては弱いものでした。大腸菌とサルモネラでは、細菌を死滅させるのに必要だった抽出物の濃度で、対照のエタノールにも同程度の作用が認められました。著者らは、これらの細菌への作用には溶媒のエタノールが寄与した可能性があるとしています。
レタスとトマトにリステリアと黄色ブドウ球菌を付着させた試験では、表面から回収される細菌は短時間で減少しました。レタスでは、黄色ブドウ球菌に対する1種類の抽出物を除き、30秒の処理で表面の菌数が検出限界を下回りました。ただし、組織全体から回収される菌は多く残り、内部に入り込んだ菌や強く付着した菌には作用が届きにくいことが示されました。
トマトでは、レタスより強い作用が報告されました。30秒の処理で両菌の表面の菌数が検出限界を下回り、組織全体の黄色ブドウ球菌も検出限界を下回りました。リステリアはこの時点では残っていましたが、120秒の処理では、すべての抽出物で組織全体の菌数が検出限界を下回りました。これは菌が完全にゼロになったという意味ではなく、試験で検出できる水準より少なくなったことを示します。
カビの生育とトマト組織への影響
研究チームは、収穫後の病害に関わるカビであるボトリティス・シネレアとアルタナリア・アルテルナータも調べました。培地に抽出物を加えると、どちらのカビでも菌糸の生育が抑えられました。一方、胞子の形成への作用は異なり、ボトリティスでは減少したのに対し、アルタナリアでは抽出物の濃度が高くなるにつれて増加しました。生育を抑える作用と、胞子の形成を抑える作用は同じではありませんでした。
レタスやトマトを用いた試験でも、抽出物によって病変の広がりが抑えられ、試験条件によっては市販の殺菌剤と同程度の作用が報告されました。また、パイワノ産の抽出物を処理したトマトの果皮組織では、4℃で7日間保存した後、対照より色の変化や細胞からの電解質の漏れが少なく、著者らは組織の状態を保つ作用が認められたとしています。
総量だけでは捉えられない成分と作用の関係
著者らは、抽出物の抗菌作用の違いを、フェノール類の総量だけでは説明できないと考察しています。個々の成分の種類や組み合わせが関わる可能性はありますが、この研究では各成分の寄与や相互作用を直接確かめたわけではありません。各地点の試料は1つの養蜂場を代表するもので、結果は今回調べた抽出物と試験条件についての報告です。研究からは、プロポリスが青果物の保存に関わる天然抗菌素材の候補となる一方、その作用は成分構成、対象の微生物、青果物の種類や菌の付着状態によって異なることが伝わります。
著者:Jessica Mejía(Departamento de Ciencias Vegetales, Facultad de Agronomía y Sistemas Naturales, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, 7820436, Chile)、Claudia Giovagnoli-Vicuña(Escuela de Medicina Veterinaria, Facultad de Ciencias Agropecuarias, Universidad del Alba, Santiago, 8370007, Chile)、Andrea I. Moreno‐Switt(Escuela de Medicina Veterinaria, Facultad de Agronomía y Sistemas Naturales, Facultad de Ciencias Biológicas, Facultad de Medicina, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, 7820436, Chile)、Jing Lu(Department of Molecular Sciences, Swedish University of Agricultural Sciences, 750 07, Uppsala, Sweden)、Gloria Montenegro(Departamento de Ciencias Vegetales, Facultad de Agronomía y Sistemas Naturales, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, 7820436, Chile)、Ady Giordano(Departamento de Química Inorgánica, Escuela de Química, Facultad de Química y de Farmacia, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, 7820436, Chile)、Galia Zamaratskaia(Department of Molecular Sciences, Swedish University of Agricultural Sciences, 750 07, Uppsala, Sweden. Electronic address: [email protected])、Cristian Jacob(Departamento de Ciencias Vegetales, Facultad de Agronomía y Sistemas Naturales, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, 7820436, Chile. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jessica Mejía, Claudia Giovagnoli-Vicuña, Andrea I. Moreno‐Switt, et al. Phenolic composition and antimicrobial activity of semi-arid Chilean propolis against human and plant pathogens associated with fresh produce. International Journal of Food Microbiology 2026-09-30. DOI: 10.1016/j.ijfoodmicro.2026.112090. 原著ライセンス:CC BY.