著者の所属・活動拠点の国は、マルタです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食べているものと大切にしているもの

太平洋の島国キリバスでは、米や小麦粉、砂糖、加工肉などの輸入食品が増え、パンノキの実や魚、ココナツといった伝統的な主食と競い合うようになっています。こうした伝統的な食事から、精製された炭水化物や砂糖、塩分、飽和脂肪の多い食事へ移っていく流れは「栄養転換」と呼ばれます。太平洋の島しょ国では、肥満や糖尿病などの非感染性疾患が多いことの背景の一つとされています。

これまでのキリバスの研究は、主に人々が実際に何を食べているかを調べてきました。しかし、食べているものは値段や手に入りやすさ、保存のしやすさにも左右されるため、人々が本当に好み、大切にしている食べ物と同じとは限りません。研究チームは、家庭で主に食事を作る大人がどの食べ物を好み、何を「伝統的な食べ物」と考えているのか、またその傾向が都市と農村や家計の状況でどう違うのかを明らかにしようとしました。

何を調べたか:1分間で食べ物を挙げてもらう調査

著者らは、新型コロナウイルスの流行前の2019年に行われた世帯調査のデータを改めて分析しました。対象は首都のある南タラワのほか、北タラワとブタリタリで、家庭の食事作りを主に担う399人の回答です。回答者の85%は都市部の住民で、農村部の回答者は約60人と少数でした。

調査では「フリーリスティング」という方法が使われました。回答者に「好きな食べ物は何ですか」「あなたたちの伝統的な食べ物は何ですか」「最もよく食べる食べ物を三つ挙げてください」と尋ね、それぞれ1分間で思いつくままに挙げてもらいます。調査員は例を示さず、「伝統的」という言葉の意味も説明しませんでした。人々自身がその言葉をどう捉えているかを知るためです。

挙げられた食べ物は、多くの人が挙げたか、そしてリストの早い順番に挙げられたかを組み合わせた「顕著性」という指標で評価されました。これは、その食べ物が人々の頭にどれだけ浮かびやすいかを表すものです。あわせて、回答者たちが共通の考え方を持っているかを調べる分析や、似た挙げ方をされる食べ物のまとまりを調べる分析、世帯の特徴と好きな食べ物の構成との関連を調べる統計分析も行われました。

主な結果:根強い地元の食べ物と、生活に溶け込んだ米

三つの質問すべてで目立っていたのは、魚、パンノキの実、ココナツでした。研究チームはこれらを、好き・伝統・日常のどの観点でも人々の意識の中心にある食べ物の核だと位置づけています。一方、輸入品である米は「最もよく食べる食べ物」で最も高い顕著性を示し、好きな食べ物でも魚に次ぐ2番目でした。農村部の回答者では、米が「伝統的な食べ物」としても顕著に挙げられ、三つの質問すべてで目立つ存在になっていました。

都市と農村では違いも見られました。都市部では鶏肉や卵、ソーセージといった店で手に入る食べ物が比較的目立ちました。農村部では湿地タロイモの一種であるババイ、カボチャ、バナナ、パパイヤ、サツマイモなど、より幅広い地元の植物性の食べ物が伝統的な食べ物として挙げられました。また、回答者同士の答えの共通性は、都市部のほうが農村部より強いという結果でした。

世帯の特徴との関連では、世帯収入の75%を超える額を食費に使っている人ほど、好きな食べ物に占める輸入食品や加工食品の割合が高い傾向がありました。また、都市部に住んでいること、冷蔵庫を持っていること、世帯人数が多いことは、好きな食べ物に占める伝統的な食べ物の割合が低いことと関連していました。著者らは、これらは世帯の特徴とリストの構成との関連であり、原因と結果を示したものではないと説明しています。

さらに著者らは、既存の食事調査ではパンや小麦粉製品、砂糖が広く消費されているにもかかわらず、今回の回答ではほとんど挙げられなかった点を指摘しています。日常的に食べている材料や調味料が、必ずしも人々の意識の上で目立つわけではないことを示しています。

研究が示すこと

この研究は、輸入食品への依存が進むキリバスでも、魚やパンノキの実、ココナツなど地元の食べ物が今も人々に大切にされていることを示しました。実際に食べているものだけでは、人々が共有する食べ物の好みを十分に表せないというのが著者らの見方です。そのため研究チームは、すでに大切にされている地元の食べ物を、より安く、便利に、手に入りやすくする取り組みが試す価値のある方法だと述べています。

原著論文の著者・所属:Zhen Ming Jeremy Ng(Faculty of Medicine and Dentistry, Queen Mary University of London, Malta Campus, Triq l-Arcisqof Pietru Pace, VCT 2520 Victoria, Gozo, Malta)、John Paul Cauchi(Faculty of Medicine and Dentistry, Queen Mary University of London, Malta Campus, Triq l-Arcisqof Pietru Pace, VCT 2520 Victoria, Gozo, Malta)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhen Ming Jeremy Ng, John Paul Cauchi. Food Salience and the Nutrition Transition in Kiribati: Urban–Rural and Socioeconomic Patterning of Food Preferences. Foods 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193499. 原著ライセンス:CC BY.