7月に入り、しじみが一年でいちばん身を太らせる時季がやってきた。夏の土用の頃に旬を迎えるしじみ 生は「土用蜆」と呼ばれ、殻いっぱいに身がふくらむのがこの時期ならではの姿だ。冬に旨みの濃さで知られる「寒蜆」とは対照的に、夏は身のボリュームで楽しませてくれる。小さな貝殻の中に、実はこの時季らしい栄養の凝縮も詰まっている。

小さな一粒に凝縮された鉄

しじみは他の貝と同じく、コハク酸やグリコーゲンといった独特のうまみ成分を持つとされ、味噌汁や吸い物を作るときにだしがいらないと言われるほどだ。実際に土用蜆の身をほおばると、小粒とは思えない濃い味わいが口に広がる。この「だしいらず」のうまみだけでも十分に主役級だが、成分表を見るとさらに驚かされる。可食部100gあたりの鉄は8.3mgで、これは月経なしの女性(30〜49歳)の推奨量6.0mg/日の138%にあたる(月経ありの場合は推奨量10.5mg/日)。一杯の味噌汁に使う程度の量でも鉄がぐっと濃縮されていることがわかる。鉄は赤血球のヘモグロビンの成分として、酸素の運搬に関わる働きを持つ。なお、この138%はあくまで推奨量に対する割合であり、通常の食事の一食分として食べる量であれば特に気にする必要はない。基準の詳細は日本人の食事摂取基準を参照してほしい。

もう一つ、しじみで際立つのがビタミンB12で、100gあたり68µgと、女性(30〜49歳)の目安量4µg/日を大きく上回る値を持つ。ビタミンB12はアミノ酸・核酸の代謝に関わり、赤血球の形成を助ける栄養素で、葉酸と協力して働くとされる。

※特定の食品の効果を示すものではありません。

汁ごと味わうのが正解

ビタミンB12は加熱には比較的強いものの、汁に溶け出しやすい性質があるとされる。つまり、しじみの味噌汁は理にかなった食べ方で、身だけでなく汁までしっかり飲み干すことで、貝殻の中に眠っていた栄養を余さず取り込める。土用蜆は身が大きい分、噛むほどに広がるうまみも楽しみの一つ。ねぎや豆腐を添えたシンプルな味噌汁はもちろん、酒蒸しにして殻から出た汁をそのままいただくのもいい。国内では島根県の宍道湖が国内有数の産地として知られるが、台湾や中国、韓国、ロシアからの輸入ものも多く流通しており、一年を通じて手に入りやすい食材でもある。

旬の膨らみを楽しむ

土用蜆の値打ちは、身の大きさとうまみの濃さがそのまま栄養の濃さにも重なっている点にある。小粒な貝の中に、鉄もビタミンB12も一杯分でしっかり働くだけの量が詰まっている。汁までいただく調理法を選べば、その恵みを取りこぼさずに味わえる。土用の時季が過ぎれば身の膨らみも落ち着いていく。旬のうちに、大粒の土用蜆を汁物でじっくり味わっておきたい。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「鉄」(厚生労働省)