著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
報告の目的
慢性便秘は、硬い便や残便感、腹部の張りなどの症状を通じて、日常生活や心身の生活の質を大きく損なうことがあります。治療ではまず、食物繊維を増やすといった生活習慣の見直しを勧められることが多いとされています。
著者らは、こうした「食物繊維をもっと摂りましょう」という一般的な助言を受けた患者が、特定の食品に偏った食生活を続けた結果、血中のカロテンが過剰になる「高カロテン血症」を起こした一例を報告しました。この症例を通じて、食物繊維を勧める際に食品の多様性を意識することの大切さを示すことが報告の目的です。
症例の経過
患者は50代(要旨では57歳)の女性で、重い交通事故の後に慢性便秘が始まり、8年以上治療を続けてもあまり改善していませんでした。消化器内科の外来で診察したところ、両方の手のひらに黄色からオレンジ色の変色が偶然見つかりました。一方で、白目(強膜)や口の中などの粘膜には黄色みがありませんでした。
詳しく話を聞くと、患者は食物繊維を増やすよう繰り返し助言され、当初はさまざまな果物や野菜を取り入れていたものの、次第にニンジンが主な食物繊維源になっていました。受診時には、朝食で千切りニンジンを少なくとも1カップ食べ、さらにベビーキャロットを毎日の間食として持ち歩く生活を数年続けていました。本人はこの食生活を便秘の改善と結びつけて考えていましたが、手のひらの変色とは関連づけていませんでした。
血液検査では、血中カロテン濃度が539 mcg/dLと基準範囲(60〜200 mcg/dL)を上回っていた一方、肝臓の働きを示す酵素の値は正常でした。研究チームはこれらの結果から、食事が原因の高カロテン血症と診断しました。なお、ビタミンA過剰の症状がなかったため、ビタミンA値は測定されていません。
患者はニンジンを減らし、食物繊維源を多様にするよう指導されました。3か月後の再診では、ニンジンは週1〜2回に減っており、手のひらの変色は消えていました。甲状腺の機能や血糖の指標、腎機能、肝酵素も正常で、他の病気が原因で起こる高カロテン血症を疑う所見はありませんでした。変色が消えたため、血中カロテンの再測定は行われていません。便秘は薬と食事の多様化の組み合わせで改善しましたが残便感は続き、追加の検査で排便時に筋肉がうまく協調しない状態が見つかり、専門のリハビリテーションへ紹介されました。
黄疸との見分け方
論文によると、カロテンが過剰になると、汗や皮脂、皮膚の最も外側の角質層に蓄積し、皮膚が黄色からオレンジ色に見えるようになります。これを「柑皮症(カロテン皮膚症)」と呼びます。角質層が厚く汗腺の多い手のひらや足の裏に特に現れやすいとされています。
白目や粘膜には角質層がないため、柑皮症では色が変わりません。この点が、白目も黄色くなる黄疸と区別する手がかりになると著者らは説明しています。高カロテン血症は一般に良性の状態とされ、原因となる食品を減らすことが主な対処法ですが、色が戻るまでには数週間から数年かかることもあると述べられています。
この報告が示すこと
著者らは、食物繊維が慢性便秘の管理に重要であることに変わりはないとしたうえで、カロテンを多く含む単一の食品に偏ると、良性ながら予防できる高カロテン血症や柑皮症が起こりうることをこの症例が示していると述べています。
ただし、これは一人の患者の観察であり、食物繊維による治療でよく起こる合併症として一般化すべきではないと著者ら自身が強調しています。そのうえで、食物繊維を勧める際には「繊維を増やして」という一般的な助言だけでなく、食品の多様性を意識した具体的な助言が役立つこと、そして白目が黄色くない手のひらや足の裏の変色は黄疸ではなく良性の柑皮症の可能性があることを、医療者への実践的な注意点として示しています。
原著論文の著者・所属:Jason H Haack(. Pediatrics , Brown University , Providence , USA)、Madison Sullivan(. Pediatrics , Brown University , Providence , USA)、Ashok Tuteja
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jason H Haack, Madison Sullivan, Ashok Tuteja. Diet-Induced Hypercarotenemia in a Patient With Chronic Constipation: A Case Report. Cureus 2026-10-16. DOI: 10.7759/cureus.118031. 原著ライセンス:CC BY.